[特許/米国]米国特許法第103条非自明性判断に関するUSPTOからの新しいガイダンス
USPTOは2024年2月27日に米国特許法第103条非自明性判断に関する新しいガイダンス(下記リンク1ご参照)を発表しました。
この新しいガイダンスは、USPTOの審査官・審判官に非自明性の判断手法に関するガイダンスを提供するものですが、既存の判断手法と異なる特別な何かを今回提供するようなわけではなく、既存の判断手法を再確認するスタンスを取っています。USPTOでは実務に大きな影響を与えることとなるガイダンスが新しく発表された際には、通常、USPTOの中で審査官・審判官向けに説明会やセミナー等を開くことが多いですが、今回はそのようなこともなく、今のところ審査官・審判官向けの簡単なメモランダム(下記リンク2ご参照)が配られただけであり、USの実務者の中では今回のガイダンスの存在意義について疑問を抱いている人も少なくないようです。おそらくですが、現在の非自明性判断の基本となっているKSR判決が出てからもう17年も経っており、USPTO全体の方針を今一度再整理する機会としてこのガイダンスを出したように推測しています。
以下、今回のガイダンスの主な内容について、箇条書きで簡単にご説明いたします。
- 2013年施行のAIA改正法により、非自明性の判断における時期的基準は、発明日ではなく、有効出願日である。
- Grahamテスト(Graham 4 factual inquiries)は、今後も相変わらず、非自明性の判断の基本的な手法である。
- 審査官が引用文献を理解するための柔軟なアプローチ(flexible approach)、および非自明性を否定するための柔軟なアプローチは今後も有効である。
- 上記柔軟なアプローチとは裏腹に、審査官は非自明性を否定する際に証拠に基づき理由付けを明確にしなければならない。
- 審査官は非自明性を否定する際に関連する全ての証拠を考慮すべきであり、これには出願人がデクラレーションで提出した二次的考慮事項も含まれる。
- 非自明性を否定する適切な拒絶理由通知書とは、事実認定と共に、発明がなぜ自明かの理由付けの説明を含むものである。
なお、審査官が非自明性を否定するための柔軟なアプローチとは、MPEP2143に列挙された下記の7つの理由付け(rational)を指します。
- 予測可能な結果を生ずる周知の方法による先行技術要素の結合
(Combining prior art elements according to known methods to yield predictable results) - 周知の要素の予測可能な結果を得ることができる他の要素との単純な置換
(Simple substitution of one known element for another to obtain predictable results) - 類似の発明品(方法又は物)を改善するために同一方法で周知の技術を使用
(Use of known technique to improve similar devices (methods, or products) in the same way) - 予測可能な結果を生ずることができる改善の準備ができている周知の発明品(方法又は物)に周知の技術を応用
(Applying a known technique to a known device (method, or product) ready for improvement to yield predictable results) - 「当然の試行」―成功の合理的期待をもって限定された特定の予測可能な解決策から選択(“Obvious to try” – choosing from a finite number of identified, predictable solutions, with a reasonable expectation of success)
- 一つの努力分野で周知の成果は,同一分野異分野を問わずデザイン・インセンティブ又はその他の市場要因に基づき,使用のために成果の変形を促進することができる。ただし,その変形したものが当該技術の熟練者に推測可能な場合
(Known work in one field of endeavor may prompt variations of it for use in either the same field or a different one based on design incentives or other market forces if the variations are predictable to one of ordinary skill in the art) - 当該技術の熟練者に先行技術の引例を修正させる又は先行技術の引例の教示を組み合わせてクレームの発明に到達させるであろう先行技術の教唆,示唆又は動機
(Some teaching, suggestion, or motivation in the prior art that would have led one of ordinary skill to modify the prior art reference or to combine prior art reference teachings to arrive at the claimed invention)
翻訳出処:
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/usa-shinsa_binran2100.pdf
リンク1
Updated Guidance for Making a Proper Determination of Obviousness
リンク2
審査官・審判官向けのメモランダム