[特許/EP]欧州特許庁、2018年11月版改訂審査ガイドラインを施行 ~今後の改訂に繋がる拡大審判部への付託等も相次ぐ~
欧州特許庁(EPO)は、毎年11月に改訂を行っている審査ガイドライン(Guidelines for Examination)の最新版「November 2018 edition」を公表し、2018年11月1日に施行した。今回もPart A~Hの8つのパートすべてで改訂が行われているが、ここでは以下の3点を取り上げる。
- 発明の単一性に関する説明の刷新
- AI関連技術の特許性判断に関する説明の追加
- 「除くクレーム(disclaimer)」に関する拡大審判部審決G1/16の反映
1.発明の単一性に関する説明の刷新(Part F-V)
欧州特許条約(EPC)82条に関連する規則44(1)で規定されている「共通又は特別な技術的特徴(the same or corresponding special technical features)」の判断手法に関する記載、用語の定義等が全面的に書き直され、明確化が図られた(F-V, 2参照)。
また、下記を例に取ると、従前からの説明も用いながら個別の説明が示されており、同じく審査における運用の明確化に資すると考えられる。
- 異なるカテゴリーの複数独立クレーム(F-V, 2.2.1参照)
- 同一カテゴリーの複数発明(F-V, 2.2.2参照)
共通の従属クレーム
マーカッシュクレーム(単一クレームにおける選択肢)
多数の区別できる医療用途のための既知の物質に関するクレーム
中間生成物及び最終生成物 - 同一カテゴリーの複数独立クレーム(F-V, 3参照)
※発明の単一性の規定とは別途に規定されている規則43(2)に関する説明で、両規定が同時に適用されうること等が示されている - 従属クレーム(F‑V, 5参照)
- 調査段階における単一性欠如の場合の手順(F‑V, 6参照)
- 実体審査段階における単一性欠如の場合の手順(F‑V, 7参照)
- 補正クレーム(F‑V, 8参照)
2.AI関連技術等の特許性判断に関する説明の追加(Part G-II, 3.3-3.7)
発明該当性/特許適格性(EPC52条(2))、技術的貢献(technical contribution)及び技術的効果(technical effects)の判断に関連する説明及び事例が追加された。具体的には、下記に関する事項が改訂内容に含まれている。
- 発明該当性/特許適格性について
コンピューター・プログラム(G‑II, 3.6参照) - 発明該当性/特許適格性の規定(EPC52条(2))に列挙されている項目に関連する特徴と技術的貢献等について
数学的方法(G‑II, 3.3参照)
→「AI関連技術(人工知能及び機械学習)(G‑II, 3.3.1参照)」及び「シミュレーション、デザイン又はモデリング(G‑II, 3.3.2参照)」に関するセクションの新設を含む
精神的な行為,遊戯又は事業活動の遂行に関する計画,法則又は方法(G‑II, 3.5参照)
コンピューター・プログラム(G‑II, 3.6参照)
情報の提示(G‑II, 3.7参照)
なお、審査ガイドラインにおけるコンピュータ実施発明(Computer-Implemented Inventions; CII)に関するセクションをピックアップしたページでは、2018年の改訂分に(updated in GL 2018)が付されている。
3.「除くクレーム(disclaimer)」に関する拡大審判部審決G1/16の反映(Part H-V, 4.1)
下表に示すディスクレーマーの類型のうち、除外される特徴が出願当初の明細書に記載されていない不開示ディスクレーマー(undisclosed disclaimer)が認められる場合の判断基準が2017年12月の拡大審判部審決G1/16に沿った記載に変更された。
- タイプ1(開示ディスクレーマー)
その特徴が除かれること(例:「Aはない方が好ましい」)が出願当初明細書に記載されている - タイプ2(開示ディスクレーマー)
当初明細書にその特徴についての記載(例:「Aが好ましい」)はあるが、その特徴が除かれることは記載されていない - タイプ3(不開示ディスクレーマー)
その特徴がそもそも当初明細書に記載されていない
不開示ディスクレーマーによる補正に関する説明そのものは、審決G1/03で示された判断基準に沿って、以下3つの場合には補正での新規事項追加を禁止するEPC123条(2)に基づいて許容されうるとある点で従前の内容から変更されていない。
- (i) EPC54条(3)(出願後公開された先願との一致)の引例に対して、新規性欠如を回復するためにするディスクレーマー
- (ii) EPC54条(2)(新規性欠如)の引例が「偶然の開示」(accidental anticipation)である場合に、新規性欠如を回復するためにするディスクレーマー
- (iii) EPC52条~57条によって、非技術的理由により特許性を排除されている主題を除くためにするディスクレーマー(例:EPC53条(a)の要件を満たすために、「ヒトを除く」とする補正)
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このように出願実務に影響をもたらす改訂が行われたところであるが、その後、将来の改訂に繋がると考えられる動きが相次いでいる。
まず、2018年12月にあったT1063/18の審決において、前回の2017年11月版改訂で反映された「本質的に生物学的な方法」の除外に関する規則28(2)(下記参照)は、EPC53条(b)の解釈に抵触するとして否定された(出典(5)参照)。この規則28(2)は2017年7月1日に施行され、「本質的に生物学的な方法」のみならず、プロダクトバイプロセスクレームに規定される方法が「本質的に生物学的な方法」に該当する場合にも不特許発明として扱われることを趣旨としていた。この件に関しては、2019年2月20日に今後の取扱いに関する会合(出典(6)参照)が行われた後、欧州特許庁長官は本件に関する質問を拡大審判部に付託し(事件番号G3/19)、関連案件については出願の審査及び異議申立ての審理が停止されることになった(出典(7)参照)。
規則28(2):第53条(b)に基づき、本質的に生物学的な方法のみによって取得された植物又は動物に関して、欧州特許は付与されない。
また、2019年に入ってからは、上述で取り上げた改訂点であるG‑II, 3.3.2の「シミュレーション、デザイン又はモデリング」に関連するところで、T0489/14の審決では、コンピューターで実施されるシミュレーションの特許性に関する下記の質問が拡大審判部に付託されることになった(事件番号G1/19)。
1. In the assessment of inventive step, can the computer-implemented simulation of a technical system or process solve a technical problem by producing a technical effect which goes beyond the simulation’s implementation on a computer, if the computer-implemented simulation is claimed as such?
2. If the answer to the first question is yes, what are the relevant criteria for assessing whether a computer-implemented simulation claimed as such solves a technical problem? In particular, is it a sufficient condition that the simulation is based, at least in part, on technical principles underlying the simulated system or process?
3. What are the answers to the first and second questions if the computer-implemented simulation is claimed as part of a design process, in particular for verifying a design?
さらに、今回若干の改訂が行われたG‑IV, 5.4のダブルパテントに関する争点が含まれる審判事件T0318/14(公開番号:EP2429542 A1)に関する審決も拡大審判部へ付託されることにとなった(本稿執筆時点で、拡大審判部の事件番号は不明)。付託される質問は下記のとおり(2019年2月8日付けの経過情報「F3314 Oral proceedings: Minutes (ex parte)」より引用)。
1. Can a European patent application be refused under Article 97(2) EPC if it claims the same subject-matter as a European patent granted to the same applicant which does not form part of the state of the art pursuant to Article 54(2) and (3) EPC?
2.1. If the answer to the first question is yes, what are the conditions for such a refusal and are different conditions to be applied where the European patent application under examination was filed
a) on the same date as, or
b) as a European divisional application (Article 76(1) EPC) in respect of, or
c) claiming the priority (Article 88 EPC) in respect of a European patent application on the basis of which a European patent was granted to the same applicant?2.2. In particular, in the latter case, does an applicant have a legitimate interest in the grant of the (subsequent) European patent application in view of the fact that the filing date and not the priority date is the relevant date for calculating the term of the European patent under Article 63(1) EPC.
その他、「審査着手時期の延期するオプションの導入」に関する意見募集が2019年1月11日まで実施され、2019年3月5日付けのニュースリリースで結果が発表された(出典(9)及び(10)参照)。
【出典】
(1)欧州特許庁「Guidelines for Examination in the European Patent Office (November 2018 edition)」
(2)欧州特許庁「Notice from the European Patent Office dated 25 July 2018 concerning the updating of the Guidelines for Examination in the European Patent Office」
(3)欧州特許庁「Guidelines for Examination: List of sections amended in 2018 revision」
(4)欧州特許庁「Guidelines for Examination: Index for Computer-Implemented Inventions」
(5)ジェトロ・欧州知的財産ニュース「2019年2月14日 欧州特許庁、植物の特許性に関する審決を公表(PDF)」
(6)欧州特許庁「EPO member states discuss patentability of plants obtained by essentially biological processes」
(7)欧州特許庁「Referral to the Enlarged Board of Appeal related to plant patentability」、「Notice from the European Patent Office dated 9 April 2019 concerning the staying of proceedings due to the referral of a point of law to the Enlarged Board of Appeal by the President of the European Patent Office」
(8)欧州特許庁「Referrals pending before the Enlarged Board of Appeal」※本稿では説明を割愛したが、2017年に移転した審判部の設置場所に関する質問等が拡大審判部に付託されたG2/19もリストされている
(9)欧州特許庁「Report on the results of the user consultation on increased flexibility in the timing of examination process now available online」
(10)ジェトロ・欧州知的財産ニュース「2019年3月13日 欧州特許庁、特許審査タイミングの自由度向上に関するユーザー・コンサルテーションの結果を公表(PDF)」
【参考】
日本特許庁「外国知財情報> 諸外国の法令・条約等:欧州特許付与に関する条約(PDF)」
日本特許庁「外国知財情報> 諸外国の法令・条約等:欧州特許付与に関する条約の施行規則(PDF)」
日本特許庁「ソフトウエア関連発明に関する比較研究について」※日欧におけるソフトウエア関連発明に特有の審査実務に関する類似点と相違点を明示することを目的とした報告書で、例えば4. 事例A-4(和文仮訳の44~52ページ(PDF))では「宿泊施設の評判を分析するための学習済みモデル」について欧州特許庁(EPO)の結論と日本特許庁(JPO)の結論が示されている
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***更新情報(2019年3月29日)***
タイトルを変更
【参考】に日本特許庁「ソフトウエア関連発明に関する比較研究について」を追加
***更新情報(2019年3月29日)***
出典(7)を追加するとともに以降の出典の番号を繰り下げ、本文の一部を変更
***更新情報(2019年4月8日、4月9日、4月12日)***
出典(7)を「EPO Contracting States discuss next steps regarding the patentability of plants obtained by essentially biological processes」から差し替え、本文の一部を変更
本文等で「Referrals pending before the Enlarged Board of Appeal」へのリンクを追加