[特許/日本]円滑な知財紛争処理を目指して
産業構造審議会知的財産分科会の特許制度小委員会では、円滑な紛争処理に向けた知財紛争処理システムに関し、下記事項について議論が進められてきた。
第42回以降の本小委員会でこれら事項について検討が重ねられ、令和2年12月23日に報告書がまとめられた。本稿では、特に注目度が高い上記(1)(4)の事項について、委員会が出した方向性について概説する。
(1)の二段階訴訟制度とは、早期の紛争解決や早期の終局判決に基づく差止めの実現を図るという目的の下、侵害の有無のみについて終局判決を得ることを可能とする新たな訴訟類型を指す。これまで、差止請求訴訟と損害賠償請求訴訟が併合提起されると、侵害論が終わったら損害論の議論に移るため、侵害論が終わった段階で早期に差止めを実現できなかった。本小委員会では、二段階訴訟制度を採用するドイツなどの諸外国の法制度や、パブリックコメントでの意見も踏まえて、議論が進められた。
しかし、二段階訴訟の早急な立法化を強く求める意見は無く、むしろニーズを疑問視する意見が多数であり、また仮にニーズがあったとしても、法改正によらず、現行法の下で執りうる手段によって満たすことができるとの指摘があり、今後、実務の動向を踏まえ、具体的なニーズが高まった時期に改めて検討するのが適当であるとされた。
(4)の特許権者の金銭的救済の充実に関し、懲罰的賠償制度については否定的な意見が多く、早期の制度化に向けた検討を進めることには慎重であるべきとされた。次に、実損填補の考え方を用いた損害賠償額の算定方法では侵害者の手元に残る利益の存在は否定できず、侵害した者勝ちのような状況が生まれ、抑止力が十分に機能しないため、侵害者の手元にある利益を特許権者に取得させる侵害者利益吐き出し型賠償制度についても議論された。しかし、最近の日本の裁判所において認容される賠償額が他国と比べて必ずしも低いと言えず、また侵害者利益を特許権者が取得できる法的根拠が不明であり、さらに不実施の特許権者が不適当に利益を得る懸念があった。一方で、近時の裁判例において高額な損害賠償額が認められる傾向があり、また令和元年改正により高額な賠償額が認容されるよう算定方法が変更されたことから、今後は、裁判の動向を見守りつつ、その上で更なる法改正が必要であるといった具体的なニーズが高まった時期に改めて検討するのが適当であるとされた。
【出典】
産業構造審議会知的財産分科会第45回特許制度小委員会(令和2年12月23日)配付資料1「ウィズコロナ/ポストコロナ時代における特許制度の在り方(案)」(PDF)