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[特許・意匠・商標/EU、英国]欧州委員会、イギリスのEU離脱交渉における知的財産権分野の方針を公表(※離脱協定案等についての追記あり)

2017年3月29日にイギリスがEUに対する離脱通告を行ったことによりブレグジットに関する交渉期間(原則2年間)が開始されてからすでに半年以上が経過したが、知的財産権分野の取扱いについて進展があった。

欧州委員会は、地理的表示を含む知的財産権分野に関するポジションペーパーを2017年9月6日に公表し、英国のEU離脱に係る協定の締結にあたっては、下記の3点を含む主要5項目を確実に実施すべきとの方針を示した。
(※離脱協定案については、追記(2018年3月20日、22日)参照)

○共同体意匠及び欧州連合商標(EU商標)関連

  • EU内で単一的な性質を有する知的財産権(筆者注:例えば、共同体意匠及びEU商標)によって離脱前に享受されたイギリスにおける保護は、イギリスのEU離脱によって害されないようにすること
  • 知的財産権によって与えられる権利に関して、イギリス離脱前のEU内における消尽は、イギリスのEU離脱によって影響を受けないこと

○特許の補充的保護証明書(SPC)関連

EU離脱日より前の補充的保護証明書(SPC; Supplementary Protection Certificates)又はイギリスにおいて継続中の権利期間延長については、同離脱日以降も引き続きEU法の規定に基づいて処理されること

一方、英国知的財産庁は、知的財産権分野に関するブレグジットの情報を発信している「IP and BREXIT: The facts」のページを2017年11月1日付けで更新した。更新された内容において、英国知的財産庁は欧州委員会のポジションペーパーと大筋において同様の意向を示していることから、共同体意匠、EU商標、特許の補充的保護証明書等の取扱いに関してイギリスもEUの基本方針には同調する路線で交渉に臨むと考えられ、今後の具体的な進展が注目される。

【出典】
欧州委員会「Position paper transmitted to EU27 on Intellectual property rights (including geographical indications)
英国知的財産庁「IP and BREXIT: The facts(2017年11月1日更新)」

【参考】
ジェトロ・欧州知的財産ニュース欧州委員会、英国EU離脱交渉に係るポジションペーパーを公表(2017年9月12日)
ジェトロ・欧州知的財産ニュース欧州委員会、英国によるEU離脱に関するEU商標及び共同体意匠に係る通知を公表(2017年12月11日)
※EU離脱日である2019年3月30日までに離脱協定が合意に至らなかった場合(又は、期限が延長されなかった場合)、登録共同体意匠(RCD)及び欧州連合商標(EUTM)に関するEU法令がEU離脱日以降はイギリスで適用されないこと等についての通知を取り上げた記事

欧州連合知的財産庁「Impact of the United Kingdom’s withdrawal from the EU – EUTMs and RCDs
※ブレグジットが登録共同体意匠(Registered Community Design; RCD)及び欧州連合商標(European Union Trade Mark; EUTM)に与える影響に関するよくある質問(FAQ)をまとめた資料で、下記の項目から構成されている

A. Ownership of EU Trade Marks
B. Scope of Protection of EU Trade Marks
C. Maintenance of Rights conferred to EU Trade Marks
D. Capacity to act and representation before the EU Intellectual Property Office
E. English in the Proceedings before the EU Intellectual Property Office
F. Priority and Seniority Claims
G. Absolute Grounds of Refusal and Invalidity
H. Relative Grounds of Refusal and Invalidity
I. Revocation for non-use
J. EU Designs
K. Glossary

ジェトロ・欧州知的財産ニュース欧州連合知的財産庁、英国によるEU離脱問題(Brexit)の EU商標及び共同体意匠への影響に関するQ&Aを公表(2018年1月31日)
※欧州連合知的財産庁から公表された上記のよくある質問(FAQ)を取り上げた記事

***追記(2018年1月30日)***
2018年1月30日に欧州連合知的財産庁から公表されたFAQを【参考】に追加

***追記(2018年3月20日、22日)***
離脱協定に関する案(Draft Withdrawal Agreement)の初稿が欧州委員会により2018年2月28日付けで公表され、その後、交渉担当者レベルでの合意内容を含む稿が欧州委員会及びイギリス政府の双方により2018年3月19日付けで公表された。

交渉段階の案であり、最終的な合意までに変更が加えられる可能性は残されているが、知的財産分野に関する条項は出願人及び権利者への負担やイギリスのEU離脱に伴う混乱を極力低減させることを意図したと考えられる方向性になっている。なお、初稿の案から変更された箇所はあるが2018年3月19日付け公表の案においても、知的財産分野は「TITLE IV INTELLECTUAL PROPERTY」の50~57条で規定されており、移行期間は121条で規定されている。

2018年3月19日付けでイギリス政府から公表された案において緑色で示されている条項については交渉担当者レベルで合意に達しており、数週間以内の法技術的な修正のみを予定しているとの説明(同案冒頭部分)があることから、知的財産分野の条項の多くは大幅に変更されることなく最終合意に至ることが予想される。

交渉担当者レベルで合意に達している条項のうち、欧州連合商標(EUTM)及び登録共同体意匠(RCD)については、EU離脱交渉の期限である2019年3月末よりも先の期日となる2020年12月31日までを移行期間(イギリス政府公表の案における121条参照)として、移行期間の終了前に登録済みのEUTM及びRCDは、再審査なしでイギリスで同等の権利を取得できることを柱としている(同案50条参照)。なお、これに伴う手続き及び費用については、特定の行政手続き不要かつ無料とすることをEU側は求めているが、今後の交渉における議論の対象とされている(同案冒頭部分及び51条参照)。

したがって、現時点では特に手続面・費用面に関してはメリット・デメリットが不確定だが、2020年12月31日の移行期間満了前までの当面の間は、案件固有の事情に応じて考慮すべき点がない限り、イギリスで有効な権利の取得のためにEUTM及びRCDは現状通りに利用可能と考えられる。

なお、欧州特許条約(EPC)はEU法の枠組みから独立しているため、イギリスのEU離脱後も、現状通りにイギリスで有効な特許権の取得に利用できる点に変わりはない。ただし、EU規則に基づく医薬品の補足保護証明(SPC)については、今後の交渉において必要な措置が議論されるとみられる(同案56条参照)。

(※この離脱協定案に関する情報を個別の記事として書き直したものは、こちら

【出典】
欧州委員会「European Commission Draft Withdrawal Agreement on the withdrawal of the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland from the European Union and the European Atomic Energy Community (First published on 28 February 2018)
欧州委員会「Draft Agreement on the withdrawal of the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland from the European Union and the European Atomic Energy Community」※内容は、イギリス政府公表のDraft Withdrawal Agreementと同一
イギリス政府「Policy Paper: Draft Withdrawal Agreement – 19 March 2018

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***更新情報(2018年12月4日)***
Draft Withdrawal Agreementの和訳を「離脱合意案」から「離脱協定案」に変更

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