[意匠/欧州]新規性喪失の原因となる行為(開示)についての欧州一般裁判所の判断
Crocs, Inc v. EUIPO (General Court 2018) No. T-651/16
欧州一般裁判所(General court)にて、意匠の新規性喪失の原因となる行為(開示)に関する判決が2018年3月14日にあったため、紹介する。
まず、欧州共同体意匠制度における関連規定を紹介する。
【新規性】
意匠出願前(優先日前)に公開等されていれば原則として新規性を喪失する。ただし、その公開等の事実が『共同体内で営業する当該分野の専門業界にとって、通常の事業過程では合理的に知ることができないものであったとき』には新規性を喪失したものとはしない、との但書が存在する。(意匠理事会規則7条(1))
極端な例で、かつ乱暴な言い方かも知れないが、ある製品(例えばオーディオ用のアンプ)が、日本の田舎の小規模の電気屋さんで展示販売されていたとしても、欧州内のオーディオ製品事業者にとっては当該事実は知り得ないだろうから、新規性は喪失していないことになる。
そして、本事件は、クロックス社のサンダルについての共同体登録意匠(257001-0001号)が、新規性喪失のため無効であるか否かについて争われた事件である。
クロックス社のサンダルは、フロリダで開催された国際ボートショーとそのウェブサイト上で公開された。公開のタイミングは、グレースピリオドの範囲外、つまり優先日より12月以上前だった。そして、この国際ボートショーでの公開行為が、意匠理事会規則7条(1)の但書に該当するかについて争われた。
クロックス社は、当該ボートショーは有名ではなく当該ウェブサイトは欧州内の事業者にとって知り得るものではなかったと主張した。さらに、知り得るものであったとの証明は相手方(無効請求側、今回は無効決定をしたEUIPO)からなされるべきであると主張した。いわゆる「否定の証明」に当たるからだ。裁判所は立証責任に関するクロックス社の主張は認めたが、「肯定的な証明」の提示を求めた。例えば、当該ウェブサイトへのEUからのアクセスが非常に少なかった事実の提示や、ボートショーにEUから参加した人がいなかったという証明などである。
クロックスはこのような「肯定的な証明」を行わず、結果として、裁判所は、当該ボートショーはEU内の事業者にとって知り得るものであったと認定し、クロックス社の登録意匠を無効にする判決を下した。
権利化段階での教訓は、当然のことであるが、場所やイベント規模によらず、公開前に(あるいはグレースピリオドの範囲内で)出願を完了しておくべき、ということである。また、係争段階のことを考えると、本判決は、意匠理事会規則7条(1)の但書に関してどのような立証を行うべきかについて述べており、大変興味深い。
【出典】
日本特許庁「諸外国の法令・条約等」※意匠理事会規則の引用について
【参考】
在ルクセンブルク日本国大使館「欧州連合司法裁判所(概要)」※一般裁判所に関する説明