[特許/日本]経済安全保障推進法案における特許出願の非公開に関する制度について
近年の国際情勢の複雑化、社会経済構造の変化等にともない国民生活や経済活動に対するリスクが顕在化しつつあります。このようなリスクに対する安全保障を確保するための経済施策を推進するために、「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案」(経済安全保障推進法案)が令和4年2月25日に国会に提出されました。
同案には「重要物資の安定的な供給の確保に関する制度」、「基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関する制度」、「先端的な重要技術の開発支援に関する制度」、及び「特許出願の非公開に関する制度」が盛り込まれていますが、これらの制度のなかで本稿では「特許出願の非公開に関する制度」について報告します。
◎「特許出願の非公開に関する制度」(第5章 第65条~第85条)
この制度は、特許出願を非公開とすることによって、
- 公にすることにより国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が記載されている特許出願につき、出願公開等の手続を留保するとともに、その間、必要な情報保全措置を講じることで、特許手続を通じた機微な技術の公開や情報流出を防止し、
- これまで安全保障上の観点から特許出願を諦めざるを得なかった発明者に特許法上の権利を受ける途を開く、
ことを意図したものであり、主に下記の項目1~6について規定しています。
なお、本制度の施行日は公布後2年以内となります。
1.特許出願の非公開に関する基本指針の策定(第65条)
政府は、明細書等に記載された発明に係る情報の適正管理その他公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明に係る情報の流出を防止するための措置(特許出願の非公開)に関する基本指針を定めます。
2.技術分野等によるスクリーニング(第一次審査)(第66条)
特許庁長官は、公にすることにより外部から行われる行為によって国家及び国民の安全を損なう事態を生ずる恐れが大きい発明が含まれ得る技術の分野として国際特許分類又はこれに準じて細分化したものに従い政令で定める特定技術分野(下記3①②の観点を踏まえて絞り込んだもの)に属する発明が記載されている特許出願を、内閣総理大臣に送付します。
3.保全審査(第二次審査)(第67条)
内閣総理大臣は、上記項目2で送付された発明について、発明の情報の保全をすることが適当と認められるかどうかの審査(保全審査)を行います。保全審査においては下記①、②の要素が考慮されます。保全審査は発明の情報の保全をすることが適当と認められるかどうかの審査を意味しており、保全は当該情報が外部に流出しないようにするための措置を意味しています。
- 国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれの程度。
- 発明を非公開とした場合に産業の発達に及ぼす影響等。
内閣総理大臣は、審査に当たり、国の機関や外部の専門家の協力を求めることができ、また、国の関係機関に協議することができます。
内閣総理大臣は、保全指定する前に、出願人に対し特許出願を維持するかの意思確認をしなければなりません。
4.保全指定(第70条)
内閣総理大臣は、保全審査をした発明であって審査の結果その発明に係る情報の保全をすることが適当と認めたもの(保全対象発明)を指定(保全指定)して出願人及び特許庁長官に通知します。
保全指定の期間は、1年以内であり、以後1年ごとに延長の要否が判断されます。
なお、保全指定によって、下記ア~カの効果が奏されます。
ア.出願の取下げ禁止(第72条)
イ.発明の実施の許可制(第73条)
ウ.発明内容の開示の原則禁止(第74条)
エ.発明情報の適正管理義務(第75条)
オ.他の事業者との発明の共有の承認制(第76条)
カ.外国への出願の禁止(第78条)
5.外国出願制限(第一国出願義務)(第78条)
日本国内でした上記項目2の特定技術分野に属する発明については、まず日本に出願しなければなりません(第一国出願義務)。
なお、外国出願をしようとするものは、特許庁長官に対し、その外国出願が第一国出願義務の対象となっているものであるかどうかにつき、事前確認を求めることができます(第79条)
6.補償(第80条)
国は、保全対象発明について、発明の実施の不許可等、保全指定を受けたことにより損失を受けた者に対して通常生ずべき損失を補償します。
【参照】
「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律」(内閣官房/国会提出法案/第208回通常国会)
(1) https://www.cas.go.jp/jp/houan/220225/siryou1.pdf(概要)
(2) https://www.cas.go.jp/jp/houan/220225/siryou3.pdf(法律案・理由)