[特許/日本]特許異議の申立て及び特許無効審判の動向分析(2018年夏版) ~2018年前半における特許異議申立ての件数は減少気味、審判便覧は改訂案が公表される~
2018年6月28日公表の「特許行政年次報告書2018年版」により、2017年までの特許異議の申立て及び特許無効審判に関する統計情報が出揃った。
2017年の1年間では、特許異議の申立てが権利単位で1,251件(対前年比37件増)、特許無効審判は161件(対前年比21件増)だった。出典(2)では月別の件数が公表されており、特許異議申立制度が復活した2015年4月以降の推移は図1のとおりで、2015年10月(復活から申立期間と同期間である6か月後)~2018年6月における特許異議の申立ては月平均109件だが(同期間の特許無効審判は月平均13件)、2018年1~6月における特許異議申立件数は月平均94件で直近6か月間は減少気味となっている(同期間の特許無効審判は月平均14件)。
<図1:特許異議申立及び特許無効審判の月別件数推移(2015年4月~2018年6月)>
※クリックすると拡大表示できます |
平均審理期間(図2参照)に関しては、特許無効審判と比べて、特許異議の申立ては明らかに長期化の傾向にある。これは、審理フローの特徴上、2015年4月の復活からしばらくの間は取消理由が通知されずに特許維持で早期に審理を終えた件が多かったことが原因と考えられる。
<図2:平均審理期間の推移>
※クリックすると拡大表示できます |
審理結果の推移は表1に示す通りで、2017年は特許異議申立てにおける取消成立(含一部成立)の割合が11%で、特許無効審判の請求成立(含一部成立)の割合と比べて10ポイント低く、このデータのみで比較すると、特許異議申立ての成功率が目立って低いようにもみえる。しかしながら、両制度の手続き上の相違点(特許異議申立制度は査定系手続、特許無効審判制度は当事者系手続)に加えて、出典(3)に示されているように、2015~2016(平成27~28)年の申立分における最終処分では訂正有りでの特許維持が50%弱を占めていることは考慮されるべきであろう。
(→2019年2月に特許庁より公表された更新データはこちら。審理結果の62.7%は、特許権の権利範囲が変更されたものとされている。)
なお、知的財産高等裁判所の裁判例検索データベースによれば、2018年7月時点で、特許異議申立てに関する特許取消決定取消訴訟は9件の判決が下されており、そのうち7件が決定取消又は決定一部取消となっている。2017年までの取消成立(含一部成立)の合計が200件弱であることを考えると、9件という判決数は全体に対してわずかな割合に過ぎないが、これまでのところ、知的財産高等裁判所が決定取消又は決定一部取消の判断を下した事件が多い状況にある。
<表1:審理結果の推移>
2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | ||
特許異議申立て | 取消決定 (含一部取消) |
- | - | - | 0 (0%) |
55 (8%) |
128 (11%) |
維持決定 (含却下) |
- | - | - | 5 (100%) |
645 (91%) |
1,085 (89%) |
|
取下・放棄 | - | - | - | 0 (0%) |
7 (1%) |
1 (0%) |
|
特許無効審判 | 請求成立 (含一部成立) |
73 (29%) |
43 (20%) |
37 (20%) |
39 (18%) |
56 (25%) |
35 (21%) |
請求不成立 (含却下) |
145 (58%) |
139 (66%) |
106 (58%) |
144 (66%) |
125 (56%) |
108 (65%) |
|
取下・放棄 | 32 (13%) |
29 (14%) |
41 (22%) |
36 (16%) |
42 (19%) |
24 (14%) |
|
※出典(1)の2018年版〈統計・資料編〉において示されているデータに基づいて作成(特許異議申立ては権利単位の件数) |
2018年8月1日には、特許異議申立人に対する審尋など職権審理の範囲に関する事項を含む審判便覧の改訂案が公表された。特許異議申立制度に関連する改訂案において注目できるポイントは下記の引用の通りで、「(1)取消理由通知と決定の予告について」が主に特許権者側、「(2)職権審理の範囲について」が主に異議申立人側に影響がある内容となっており、施行後の運用と審理結果への影響が注目される(追記:その後、案から一部変更された上で、2018年10月1日より運用が開始されている)。
<審判便覧第17版(案)において特許異議申立制度に関連する改訂のポイント>
※出典(5)の<参考資料>「審判便覧(第17版)の主な改訂項目」(PDF)より引用
※改訂後に特許庁より公表された資料はこちら(PDF)
(1)取消理由通知と決定の予告について(67-05.1、67-05.5)取消理由通知書の記載要領については、審判合議体の特許を取り消す旨の判断を示すために、次の事項を明記します。
決定の予告については、・・・(中略)・・・特許異議の申立てと無効審判とでは制度趣旨が異なることから、次のように記載を改めます。
|
(2)職権審理の範囲について(67-05、67-05.3、67-05.5)職権審理の範囲については、次の説明を追加します。
また、取消理由通知に対し特許権者より意見書のみが提出された場合の審理に関して、異議申立人が有する情報を職権審理に活用するという観点から、次の記載を追加します。
|
【出典】
(1)特許庁「特許行政年次報告書(2018年版等)」
(2)特許庁「特許出願等統計速報(平成30年5月分等)」
(3)特許庁「特許異議の申立ての状況、手続の留意点について」(リンク切れ)※2017(平成29)年12月末時点の処理状況が示されていた
(4)特許庁「特許異議申立の統計情報」※2018(平成30)年12月末時点の処理状況が示されている
(5)特許庁「審判便覧の改訂案(第17版)に対する意見募集の実施について」
(6)特許庁「特許異議の申立て」、「無効審判について」
(7)知的財産高等裁判所「裁判例検索データベース」※特許異議申立ての特許取消決定取消訴訟に関する検索結果はこちら
(8)特許庁「審判便覧の改訂案(第17版)に対する意見募集の結果について」
(9)特許庁「審判便覧(第17版)」
(10)特許庁「平成30年9月の特許異議申立制度に関する審判便覧改訂のポイント(PDF)」
【関連記事】
知財トピックス(日本情報)特許異議申立制度の利用状況に関する分析(2016年秋版:その3) 2016-12-02
知財トピックス(日本情報)日本の特許無効審判制度の現状 ~2016年は請求件数が大幅減も、無効率は7ポイント上昇の25%に~ 2017-11-06
知財トピックス(日本情報)日本における知的財産権訴訟の現状 ~特許権侵害訴訟(2014~2016年)の判決・和解は、認容16%、給付条項ありの和解27%~ 2017-11-20
知財トピックス [特許・意匠・商標・著作権・不正競争/日本]知的財産権訴訟の近況と今後 ~「証拠収集」関連及び「損害賠償額算定」関連を含む特許法等の一部改正案が閣議決定される~ 2019-03-05
知財トピックス [特許・意匠・商標/日本、米国、欧州等]〈コラム〉知財関連の裁判例・審決例の調べ方 2019-07-22
季刊創英ヴォイス
vol. 76 視点:特許異議申立制度に期待し過ぎると失望する?(PDF) 2016-04-01
vol. 76 知財情報戦略室:日米欧中韓における特許付与後手続の基礎知識(PDF) 2016-04-01
vol. 80 知財情報戦略室:データから見る日本の特許異議申立制度の現状(PDF) 2017-08-01
IP NEWS(弊所英語サイト)「Japanese Patent Litigation and Its Related Statistics – Current Environment and Future Agenda –」 2016-07-11
***更新情報(2018年9月12日、13日)***
図1のデータを2018年6月まで拡張して、関連する本文中の記載を変更
図2及び表1を2012年以降のデータに拡張
***更新情報(2018年9月25日)***
本文中の表1に関する説明を補足
***更新情報(2018年11月21日)***
出典(7)及び(8)を追加し、改訂後の審判便覧(第17版)への反映に関する情報を筆者注として追記
【関連記事】を整理
***更新情報(2019年1月4日)***
表1における誤記を訂正
***更新情報(2019年2月28日、3月11日)***
特許庁ウェブサイトのURL変更にあわせて、【出典】等のリンク先を変更
出典(4)の追加にあわせて以降の番号付けを更新し、本文の一部を変更
出典(10)を追加し、本文の一部を変更
***更新情報(2019年3月6日)***
【関連記事】を変更