[特許・実用新案・意匠/中国]専利法実施細則・専利審査指南の改正(第6編) ~ 登録後の手続き ~
既報の第5編では、実用新案に関する改正点を解説した。今回は、登録後の手続きに関する改正点を解説する。なお、解説には、2024年8月6日に中国国家知識産権局により公表された「専利手数料基準及び減額政策の一部調整に関する公告」(以下、手数料調整公告)等に関する内容が含まれる。
1.権利付与過程の不合理な遅延に対する特許権の存続期間の補填
中国特許権の存続期間は、原則、出願日(PCT出願の場合は国際出願日)から起算して20年間であるが、改正専利法第42条第2項には、以下の要件を全て満たす場合に、特許権の存続期間が補填され得ると規定されている。この制度は、米国の特許期間調整(Patent Term Adjustment)及び日本の特許権の存続期間の延長(特許法第67条第2~3項)に相当する制度であるので、以下、PTAと略称する。
要件①:特許権の付与が、出願日から4年かつ実体審査請求日から3年経過後である |
要件②:権利付与過程における不合理な遅延が、出願人に起因していない |
PTAについて、補填日数の計算方法、補填請求の手続きおよび庁費用を紹介する。
(1)補填日数の計算方法
「補填日数」=「登録公告日」-「出願日から4年かつ実体審査請求日から3年満了の日」-「合理的な遅延」-「出願人に起因する不合理な遅延」 |
改正専利法実施細則(以下、改正実施細則)第78条第2項には、補填日数の計算方法が規定されている。補填日数の計算にあたっては特許庁に起因する不合理な起因に対してのみ補填されるように、遅延と判断された日数から例えば出願人に起因する不合理な遅延等が差し引かれている。計算式として表すと以下の通りである。
改正専利審査指南(以下、改正審査指南)第5部分第9章第2.2節には、計算式における出願日については、PCT出願の場合には国内移行日、分割出願の場合には分割出願提出日となり、実体審査請求日については、実体審査請求日が特許出願の公開日よりも早い場合には、公開日から3年として起算されると規定されている。
「合理的な遅延」については、日数の計算方法は規定されていないものの、改正実施細則第78条第3項には、下表に示すような復審手続や審査中止等による遅延が合理的な遅延に該当すると規定されている。また、下表に示すものに加え、改正審査指南第5部分第9章第2.2.1節には、行政訴訟手続による権利付与過程における遅延等、その他の合理的な遅延も該当すると規定されている。
合理的な遅延の種類 |
具体的に該当する場合 |
復審手続による遅延 |
復審請求と同時の補正、または復審通知書に応答する際の補正に基づいて特許権が付与された場合 |
審査中止による遅延 |
審査中止の事由が以下である場合 ✓ 特許を受ける権利の帰属に関する紛争 ✓ 人民法院による民事案件において決定した特許を受ける権利に対する保全措置 |
「出願人に起因する不合理な遅延」については、改正実施細則第79条および改正審査指南第5部分第9章第2.2.2節には、以下の場合の遅延が該当すること、およびそれぞれの遅延における日数の計算方法が規定されている。
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該当する場合 |
日数 |
① |
指定された期間内に庁通知に応答していない場合 |
期間満了の日から実際の応答日までの日数 |
② |
遅延審査を請求した場合 |
実際に審査が遅延された日数 |
③ |
優先権基礎出願の援用に基づいて出願書類の補正を請求して遅延が発生した場合 |
遅延が発生した日数 |
④ |
権利回復を請求した場合 (特許庁に起因する遅延が立証できる場合を除く) |
元の期間満了の日から権利の回復請求が認める庁通知の発送日までの日数 |
⑤ |
PCT出願について、優先日から30月以内に国内段階移行の手続きを行ったが、事前処理を請求していない場合 |
国内段階移行日から優先日から30月満了の日までの日数 |
なお、特実併願において実用新案の放棄を宣言することにより特許出願が登録された場合には、PTAの適用が不可とされている。
(2)補填請求の手続き
PTA請求に関する手続きおよび流れは、以下のフローチャートの通りである。
PTA請求書のフォームには、特許権者が補填を求める期間を記入する欄はないため、補填期間について特許権者は審査官と事前に交渉する機会はない。従って、決定された補填期間に不服がある場合には、補填の決定の後にのみ、行政不服審査で不服を申し立てるものと考えられる。
また、行政復議法第20条等には、特許権者は、PTA請求に関する決定を受領した日から60日以内に当該決定に対して行政不服審査を請求することができるとされているが、将来的に権利侵害紛争が起こった場合における利害関係者に関しては、行政不服審査を請求する期限に関する明確な規定はない。
(3)庁費用
手数料調整公告には、PTA請求料および補填期間の年金が規定されている。
PTA請求料 |
1件あたり200元(日本円で約4000円) |
補填期間の年金 |
1件あたり8000元(日本円で約16万円)/年 -ただし1年未満の補填期間については年金納付不要(例えば、補填期間は2年を越え3年未満である場合、補填期間の年金は8000×2=16000元となる。) |
2.新薬の販売審査・評価承認にかかる時間に対する特許権の存続期間の補填
新薬の販売審査・評価承認に時間を要することにより、特許権の有効特許権存続期間が浸食されるという問題がある。この問題を解決するために、改正専利法第42条第3項には、中国で販売の承認を得た新薬について、関連特許権の存続期間が補填され得ると規定されている。この制度は、米国の特許期間延長(Patent Term Extension)及び日本の医薬品等の特許権の存続期間の延長制度(特許法第67条第4項)に相当する制度であるので、以下、PTEと略称する。
PTEについて、適用要件、補填日数の計算方法、補填請求の手続きおよび庁費用を紹介する。
(1)適用要件
改正実施細則第80条、第81条および改正審査指南第5部分第9章第3節には、下表に示す適用要件が規定されている。
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判断項目 |
具体的に該当する場合 |
① |
新薬の該当性 |
以下2種類の医薬品を含む ✓ 中国国務院の薬品監督管理部門により販売が許可された創新薬品 ✓ 改正審査指南第5部分第9章第3.4節により規定されている改良型新薬 |
② |
新薬関連特許の該当性 |
新薬の中の薬物活性物質の製品特許、製造方法特許および医薬用途特許 |
③ |
PTE請求の制限 |
✓ 対象特許の請求項は販売許可された新薬の関連発明を含む場合のみ、PTE請求可能 ✓ 1つの新薬における複数の関連特許権については1つの特許権に対してのみ、PTE請求可能 ✓ 1つの特許権における複数の関連新薬については1つの新薬に対してのみ、PTE請求可能 ✓ 1つの特許権については1回のみ、PTE請求可能 |
④ |
時期的要件 |
対象特許権の登録公告日が販売許可日よりも早い |
⑤ |
特許有効性要件 |
PTEを請求する際、特許権が有効になっている。 |
新薬における「新」についての判断基準は、改正専利法、改正実施細則および改正審査指南には明確に規定されていないものの、国家薬品監督管理局(すなわち中国国務院の薬品監督管理部門)による通告には、創新薬品および改良型新薬は、中国の国内外で未だ上市されていないことが要件とされている。同様に、PTEにおける新薬についても、中国で販売審査・評価承認を請求する前に海外で販売されていない医薬品に限られるだろうという解釈が、中国の実務家の見解である。
(2)補填日数の計算方法
「補填日数」=「新薬の販売許可日」-「特許の出願日」-5年 |
補填日数の計算方法は、改正実施細則第82条に規定されており、計算式として表すと以下の通りである。
改正専利法第42条第3項には、補填日数の上限は5年であり、新薬販売許可後の合計有効特許権存続期間の上限は14年であるとされている。
(3)補填請求の手続き
PTE請求に関する手続きおよび流れは、以下のフローチャートの通りである。
PTAと同様に、特許権者であれば、PTE請求に関する決定を受領した日から60日以内に行政不服審査を請求することができるとされているが、権利侵害紛争による利害関係者、および関連薬品の登録申請を既に提出した利害関係者に関しては、行政不服審査を請求する期限に関する明確な規定はない。また、関連薬品の登録申請を既に提出した利害関係者の定義も明確にされていない。
(4)庁費用
手数料調整公告には、PTE請求料および補填期間の年金が規定されている。
PTE請求料 |
1件あたり200元(日本円で約4000円) |
補填期間の年金 |
1件あたり8000元(日本円で約16万円)/年 -ただし1年未満の補填期間については年金納付不要(例えば、補填期間は2年を越え3年未満になった場合、補填期間の年金は8000×2=16000元となる。) |
PTAとPTEの両方を請求する場合、両方の請求料を納付しなければならない。両方とも補填の決定がなされた場合、補填期間の合計に応じた年金を納付する。
3.オープンライセンス
オープンライセンス制度とは、権利者がライセンサーとして、不特定のライセンシーに専利権の通常実施権をオファーする制度であり、専利権の活用を促進することができると考えられている。改正実施細則第85条、第87には、中国のオープンライセンス制度には、主にオープンライセンス声明およびオープンライセンス実施契約の届出という二段階の対庁手続きが含まれるとされている。
(1)オープンライセンス声明
改正実施細則第85条、第86条および改正審査指南第5部分第11章第3節には、権利者は、オープンライセンス声明を特許庁に提出した際、下表に示す要件を満たしているであれば、特許庁は、当該オープンライセンス声明を公告するとされている。
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要件の種類 |
具体的に該当する場合 |
① |
声明の記載要件 |
以下の事項がオープンライセンス声明に明確に記載されている ✓ 専利番号 ✓ 権利者の氏名/名称、および連絡先 ✓ ライセンス使用料の支払手段および基準 ✓ ライセンス期間 ✓ オープンライセンス声明の要件を満たしたことに関する承諾 ✓ その他の必要事項 |
② |
有効実施要件 |
以下の専利権の有効実施を妨げた状況等は存在しない ✓ 専利権が独占的又は排他的なライセンス有効期間内にある ✓ 年金が納付されていない |
③ |
実用新案・意匠における付加要件 |
オープンライセンス声明を提出するとともに、技術評価書(中国語原文では、「専利権評価報告書」)を提出している |
(2)オープンライセンス実施契約の届出
改正審査指南第5部分第11章第6節には、オープンライセンスの専利の実施を希望するあらゆる機構又は個人が、以下の要件を満たしている場合、オープンライセンス実施契約が成立するとされている。
要件①:権利者にオープンライセンスの専利の実施を希望する旨を書面にて通知した |
要件②:公告されたライセンス使用料の支払手段および基準に従って、ライセンス使用料金を支払った |
オープンライセンス実施契約が成立した場合、ライセンサー(すなわち権利者)またはライセンシーは特許庁にオープンライセンス実施契約を届け出る必要がある。なお、ライセンサーが中国人や中国法人であり、ライセンシーが外国人や外国法人である場合には、オープンライセンス実施契約の届け出に加え、中国の商務部門に、技術輸出入の関連法規に従った技術輸出に関する登録手続きを行わなければならない。
また、改正審査指南第5部分第11章第8節には、オープンライセンス実施契約の届け出があった場合には、権利者が年金の減額を請求したとも見なされると規定されている。具体的な減額の程度は手数料調整公告に規定されており、オープンライセンス実施契約の届け出が認められた場合、オープンライセンスの実施期間における年金は15%減額されると規定されている。
さらに、同第8節には、権利者がオープンライセンス声明を取り下げた場合、次の年度から年金の減額優遇を受けられないことが規定されている。これは、ドイツ等のオープンライセンス制度において、オープンライセンス声明を取り下げた場合に本年度の年金減額まで追払されることと比べて、権利者に友好的な規定になっていると言える。
【出典】
1.中国国家知識産権局「国家知识产权局关于调整部分专利收费标准和减缴政策的公告(第594号)」
2.JETRO「『専利審査指南』(2023)改正についての解説(二)、(八)」
3.中国国家国家薬品監督管理局「国家药监局关于发布化学药品注册分类及申报资料要求的通告(2020年第44号)」等