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[商標/英国]過度に広範な商品を指定することが悪意(bad faith)にあたると判断した判決(「SkyKick v Sky」事件)

2024年11月13日にイギリス最高裁判所は、「SkyKick v Sky」事件において重要な判決を下した。過度に広範な商品・役務を指定した商標登録について、実際にその商品・役務について商標を使用する意図がなかったのであれば、悪意(bad faith)の商標出願となって商標が無効理由を持つ場合があると判断したものである。

<概要>
Sky社はイギリスを拠点とする大手メディア・通信事業者であり、「SKY」商標を幅広い商品について登録していた。本件は、データ移行サービスやクラウドストレージサービスを提供するソフトウェア会社であるSkyKick社による「SkyKick」商標の使用に対して、Sky社が「SKY」商標の権利侵害として争った事案である。

最高裁は、出願人が出願時に真正な使用意思を持たない商品・役務を指定する場合、その出願が悪意に該当しうると判断した。例えば、「computer software」のような様々なカテゴリーが存在する商品については、出願人がそのすべてのカテゴリーの商品について商標を使用する真正な意思がないのであれば、商標登録は部分的に無効とされると指摘した。

<本判決の影響>
この判決は、現に存在する極めて多数のイギリス商標登録(例えば指定商品に「computer software」を含む商標登録)が潜在的な無効理由を有することを意味する。本判決後もイギリスにおいて「computer software」を指定することは可能と思われるが、使用意思の観点から登録に正当性がないと判断されるリスクがある点には注意しなければならない。

この判決により、商標権は実際に権利者が商標を使用している(または真正な使用意思のある)商品・役務の範囲に制限される可能性がある。今後、権利者の事業分野と関連性がない(または、低い)指定商品・役務に基づいて権利行使を試みた場合、相手方がそれらの部分は悪意に基づく出願であると反撃することで、権利行使が否定されたり、登録が部分的に無効にされるリスクがある。

もっとも、仮に悪意の出願と認定されたとしても、出願全体が無効になるわけではなく、実際に権利者が使用する商品・役務の範囲に権利を限定されると考えられる。その意味では、本判決が及ぼす影響は限定的ともいえる。

<考察>
判決では、自らの事業実態に即して適切な商品・役務を指定した権利者よりも、過度に広範な商品・役務を指定した権利者のほうが強い権利を享受するのは不合理である点が指摘されている。この指摘は妥当である。登録さえすれば強大な権利が発生する登録主義の制度は、悪質な権利者による濫用の危険性をはらむものである。今回の判断は、使用主義の観点からこの点を修正するものであり、総合的には商標権による取引秩序の維持を容易にするものと考えられる。

もちろん、実際に使用する商品・役務だけを指定するだけでは、ブランド戦略や模倣対策の観点から十分な権利が取得できないことは大いにありうる。そのため、今後の出願では、過度に広範な商品・役務を指定していないかどうか注意しながら、その商品等を指定した合理的な理由を説明できる範囲で、妥当な権利範囲を模索していく必要がある。

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