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不使用取消審判の「請求の趣旨」の明確性について

 不使用取消審判を請求する際の「請求の趣旨」の記載方法について、現行の審判運用のあり方を厳しく指摘する判決が続いています(知財高裁平成19年6月27日判決・平成19年(行ケ)第10084号審決取消請求事件、知財高裁平成19年10月31日判決・平成19年(行ケ)第10158号審決取消請求事件)。判決が指摘する問題点について考察してみました。

商標法4条1項11号の拒絶理由が通知された場合の対応策として、引用された他人の登録商標に対し、不使用取消審判(50条)を請求する場合があります。

この場合、拒絶理由を解消するためには、当該登録商標に係る指定商品のうち、自己の出願に係る指定商品と同一・類似関係にある商品をすべて取り消す必要があります。

しかし、取消の対象となる登録商標が、旧商品区分(昭和34年商標法等)に基づいて登録され、その後、指定商品の書換も行われていないような場合は、現行商品区分に基づいて出願している指定商品との関係で、どこまでが“類似”商品となるのか、明らかでない場合があります。

一方、不使用取消審判請求の際には、請求不成立のリスクを回避するため、請求の対象となる商品の範囲は最小限にしておく必要があります。

そこで、従来、このようなケースについては、審判請求書の「請求の趣旨」欄に「指定商品○○、及びこれに類似する商品」と記載することによって、同一・類似範囲の商品を特定するという実務が定着していました。

しかし、今年になって、このような審判実務のあり方を厳しく指摘する判決が立て続けに出されました(平成19年(行ケ)第10084号審決取消請求事件、平成19年(行ケ)第10158号審決取消請求事件)。直近の後者の事件は、

(1)原告(SPK社)の昭和34年法下で登録された登録第1216724号商標「COMPASS」(指定商品「輸送機械器具,その部品及び附属品(他の類に属するものを除く)」(旧第12類))について、被告(ダイムラークライスラー社)が、指定商品『自動車並びにその部品及び附属品,及びこれらに類似する商品』についての登録の取消を求めて不使用取消審判を請求したところ、

(2)特許庁は、被告の請求どおり「登録第1216724号商標の指定商品中、第12類『自動車並びにその部品及び附属品,及びこれらに類似する商品』については、その登録は取り消す。」との審決をしたので、

(3)これに不服の原告が審決の取消を求めて提訴したという事件です。

この判決の理由の中では、「念のため」として以下の点が指摘されています。

『被告が取消しを求めた指定商品の範囲については、「自動車並びにその部品及び附属品」ではなく、「及びこれらに類似する商品」を含めた点において、不明確というべきである。』

『本件取消審決が確定した後の本件登録商標の効力の及ぶ指定商品の範囲は、旧12類「輸送機械器具,その部品及び附属品(他の類に属するものを除く)」から「自動車並びにその部品及び附属品,及びこれらに類似する商品」を除外した指定商品となるが、その範囲は客観的明確性を欠き、法的安定性を害する結果になるといわざるを得ない。』

『商標登録の取消審判請求の審理する審判体としては、実質的な審理を開始するに先だって、まず、釈明権を行使するか、補正の可否を検討する等の適宜の措置を採るべきであり、そのような措置を採ることなく、漫然と手続を進行させた本件の審判手続のあり方は妥当性を欠く点があったというべきである。』

『今後、商標法50条に基づく商標登録の取消審判請求の審理に当たっては、請求人の求めた「請求の趣旨」における「指定商品の範囲」(特に、「類似する商品」との記載)の明確性の有無の検討、不明確な請求の趣旨に対する是正手続を十分に尽くすべきであり、この点に考慮を払わない審判手続の運用は、すみやかに改善されるべきである。』

しかし、そもそも被告側が「自動車並びにその部品及び附属品,及びこれらに類似する商品」の表記を採用したのは、昭和34年法に基づく原告商標の指定商品「輸送機械器具,その部品及び附属品(他の類に属するものを除く)」(旧第12類)のうち、どこまでが「自動車並びにその部品及び附属品」の類似範囲に含まれるのか、俄かに判別できなかったためです。これは、これまで脈々と続いてきた商品区分の変遷にも起因する問題であり、釈明権の行使等によって明らかになるような単純な話ではないように思います。

したがって、少なくとも、4条1項11号の拒絶理由を解消するための手段として不使用取消審判を請求する場合は、従来の審判運用の方が現実的でベターだと思いますが、上記の判決が今後の審判運用にどう影響してくるのか、注目されるところです。

以上

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