アメリカ特許法施行規則改正について
アメリカ特許商標庁は、継続出願・継続審査の回数制限、クレーム数の制限、関連する出願・特許の取扱い等に関する特許法施行規則の改正を公表しました。改正規則は2007年11月1日から施行されます。 |
[注]
10月31日にアメリカ・バージニア州東部管轄の連邦地方裁判所は、新規則の施行を差し止める仮処分を下しました。これにより、何らかの進展があるまでは従前どおりの規則となります。(2007年11月13日追記)
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アメリカ特許商標庁(USPTO)がクレームや継続出願に関する改正案を2006年1月に公表して以来、成り行きが注目されていた特許法施行規則(37 CFR)の改正に関するファイナル・ルールが2007年8月21日付官報で公表されました。
USPTOの公表資料によれば、今回の改正は特許審査における質と効率の向上が目的とされています。しかしながら、多岐にわたるだけでなく、互いに入り組んだ改正の内容は、アメリカ特許出願の手続において出願人に負担と制約を強いることとなりそうです。
主な改正点の概要は次のとおりです。
1.継続出願(一部継続出願を含む)・継続審査の回数制限
分割出願(divisional application)、継続出願(continuation application)及び一部継続出願(CIP; continuation-in-part application)は、継続的出願(continuing application)の類型として出願時に明確に特定することが求められます。
その上で、1つの出願ファミリー(application family)において、請願書(petition)及び説明(showing)がない場合、継続出願又は一部継続出願は2回まで、RCE(request for continued examination; 継続審査請求)は1回までに制限されます。なお、分割出願に係る出願ファミリーは、別の出願ファミリーとして扱われます。
改正後も所定の要件を満たすことで、3回目以降の継続出願(又は一部継続出願)及び2回目以降の継続審査請求は可能とされています。しかしながら、以前の出願において補正等を提出できなかった事情に関する説明等が求められるため、これまでよりも出願人の取り得る処置は制限されると考えられます。
2.クレーム数の制限
審査支援資料(ESD; examination support document)を提出しない場合、原則として、1つの出願においてクレームの数は独立形式のクレームが5以内、合計が25以内に制限されます。
審査支援資料を提出することで、この制限数を越えるクレームを審査対象とすることができます。しかしながら、出願人には、予備的な調査結果の説明書、関連度が高い引例のリスト、各引例に開示されているクレームの構成要件、独立クレームの特許性に関する詳細な説明、及び、アメリカ特許法112条第1パラグラフにおける明細書の記述要件(written description requirement)に関する説明といった資料が要求されます。そのため、審査支援資料の提出は出願人にとって大きな負担となります。
なお、このクレーム数の制限に適合させるために出願人が取り得る処置には、クレーム数を調整する補正や審査支援資料の提出以外に、限定要求の提案(SRR; suggested requirements for restriction)があります。
また、この制限に関して、クレーム数を数える際には、特許性において区別できないクレームを含む同時係属中の出願(許可通知(Notice of Allowance)が発行された出願を除く)の全クレームも計算対象となります。そのため、同時に係属する複数の出願において互いに類似するクレームを作成する場合(例えば、関連発明に係る別出願のクレーム、継続出願のクレーム)には注意が必要です。
3.関連する出願・特許の取扱い
所有者が共通する出願及び特許(commonly owned applications and patents)が存在する場合、出願人は、少なくとも1人の発明者が共通であって、2ヵ月以内の出願日又は優先日を主張している他の特許出願又は特許を特定することが求められます。ここでの出願日・優先日は、実際の出願日、外国出願に基づく優先日、先の仮出願の出願日又は非仮出願(non-provisional application;いわゆる本出願)の出願日を対象としています。これにより、出願人は、発明者だけでなく、出願日・優先日についても詳細に管理することが求められます。
また、特許出願は、他の特許出願又は特許と実質的に重複する開示を含み、且つ、主張されている出願日又は優先日が同じ場合、特許性において区別できないクレームを少なくとも1つ含むという推定が働きます。この推定に対しては「反証」又は「ターミナル・ディスクレーマ及び複数の出願としていることに関する説明」の提出で対応することができます。なお、対応を取らなかった場合、上述のクレーム数の制限に関する規定の適用に際して、該当する複数の出願の全クレームが計算対象となります。また、1つの出願を除いて他の出願では当該特許性において区別できないクレームの削除を求められる可能性があります。
4.一部継続(CIP)出願の取扱い
一部継続出願の出願人は、先の出願(すなわち、親出願)においてアメリカ特許法112条第1パラグラフにおける明細書の記述要件(written description requirement)を満たすように開示されているクレームを指摘することが求められます。この検証が出願人によってなされなかった場合、その一部継続出願の審査は先の出願の出願日ではなく、現実の出願日を基準にして行われます。
5.施行日・経過処置
施行日は2007年11月1日です。
ただし、アメリカ出願日(又は国内移行日)が施行日以前の出願であっても、係属中の出願に改正後の規則が適用される場合や、所定期間内に書面の提出又はクレーム補正が必要となる場合が多いため、経過処置には十分な注意が必要です。
また、2007年10月10日にUSPTOは継続的出願及び特許性において区別できないクレームを含む出願に関する経過処置について、規定の明確化及び一部緩和を内容とする説明(Clarification)を発表しています。また、施行の差し止めを求める訴訟が提起されており、今後も引き続き最新情報に注意する必要があると思われます。
改正規則の詳細及び各種資料については、米国特許商標庁(USPTO)ホームページ(英語)等をご参照ください。
・米国特許商標庁(USPTO)ホームページ
http://www.uspto.gov/index.html
※11月13日現在、施行差し止めの仮処分に関する告示がトップ・ニュースに掲載されています。
・米国特許商標庁(USPTO)公表資料へのリンク集
Claims and Continuations Practice – Final Rule
http://www.uspto.gov/web/offices/pac/dapp/opla/presentation/clmcontfinalrule.html
・2007年10月10日付ファイナル・ルールに関する説明
Clarification of the Transitional Provisions Relating to Continuing Applications and Applications Containing Patentably Indistinct Claims
http://www.uspto.gov/web/offices/pac/dapp/opla/preognotice/clmcontclarification.pdf
・プレゼンテーション用スライド
Presentation Slide Set
Claims and Continuations Final Rule [PDF]
http://www.uspto.gov/web/offices/pac/dapp/opla/presentation/ccfrslides.pdf
・よくある質問
Frequently Asked Questions [PDF]
http://www.uspto.gov/web/offices/pac/dapp/opla/presentation/ccfrfaq.pdf
・ニューヨーク発 知財ニュース – 米国 – ジェトロ
http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/
USPTO新規則に対し施行前日に差止めの仮処分命令(バージニア東部連邦地裁) 2007年10月31日
http://www.jetro.go.jp/biz/world/n_america/us/ip/news/pdf/071031.pdf
以上 (2007年10月22日、11月13日 一部更新)