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「矢場とん」騒動を考える

 今月は、名古屋の老舗「矢場とん」の模倣店が韓国に出現し、且つ、商標登録されてしまった問題が話題となりました。日本の登録商標が韓国で勝手に登録され、使用されている場合、日本の権利者としてはどのような方法が取れるでしょうか。

この事件は、名古屋に本店を構える「みそかつ」の老舗「矢場とん」の看板文字や豚のキャラクター図形がそっくりそのまま韓国のとんかつ店で流用され、且つ、韓国特許庁に商標登録されてしまったという事件です。

報道によれば、本家「矢場とん」は、日本では商標登録をしていましたが、韓国では未登録でした。そこで、対策として、(1)韓国の商標登録を取消すため、韓国特許庁に異議申立を行い、(2)韓国の公正取引委員会を通じて是正措置を求め、且つ、(3)上記(1)(2)と並行して模倣店と交渉を進めるという方法が採られたようです。その結果、今月半ば頃、「矢場とん」が模倣店から韓国の商標権を譲り受けることで和解が成立し、ようやく事態は収拾しました。

今回の事件のように、日本の登録商標が韓国で全く無関係の第三者に登録され、使用されている場合、日本の権利者としてはどのような方法が取れるでしょうか。

まず、第三者の商標登録を取消又は無効にするための方法として、日本と同様、韓国でも、異議申立制度や無効審判制度の活用が考えられます。請求期間等の制限はあるものの、

○ 日本の登録商標がすでに韓国で周知になっている場合。あるいは、

○ 韓国ではそれほど知られていないが日本では周知となっており、且つ、模倣者側に不正の意図が認められる場合には、異議申立ないしは無効審判を請求できる可能性があります。

一方、上記のような第三者の使用を止めさせたい場合、韓国で商標権を取得していなければ、商標権侵害を理由に差止め等を請求することはできません。また、韓国で営業を行っていなければ不正競争防止法に基づく請求も認められにくいと考えられます。

この点、今回「矢場とん」が取った方法の一つに、(2)公正取引委員会を通じて是正措置を求めるというものがあります。これは、上記模倣店が「1947年創業」「名古屋に行かなくても韓国で食べられる」など、本家「矢場とん」と関連があるような宣伝広告を行っていたため、公正取引法違反の可能性が出てきたと考えられます。違反行為と認められれば、当該不公正取引行為の中止その他是正に必要な措置が下されるほか、民事責任・刑事責任の追及も可能になりますので、同様のケースにあたる際は、是非参考にしたいところです。

その他、今回の事件のように、豚のキャラクター図形のような著作物を無断で使用する行為に対しては、著作権侵害の主張の余地もあると思います。

今回の事件を振り返ると、本家「矢場とん」は、韓国で商標権を取得しておらず、また、韓国での営業も行っていなかったようですが、異議申立や、公正取引委員会への申立など、徹底抗戦の姿勢を見せつつ交渉に臨んだことで、韓国商標権の譲受という良い結果を得ることができました。しかし、交渉では、模倣店側から「韓国では周知でない」等の反論を受け、難航したとも報道されています。韓国で商標権を取得していればこのような模倣店の出現自体、回避できたのではないかと思われます。

ともあれ、早め早めの商標権取得が必要であることを痛感させられる事件でした。

以上

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