弁理士試験について語る

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第3話.人工知能(AI)時代における弁理士資格の価値(前編)

2018/10/28 公開

最近、人工知能(AI)が人間の仕事を脅かすのではないか、という議論が盛んです。弁理士の仕事分野でいえば、明細書等の翻訳、特許性の判断、さらには明細書等の各種特許書類の作成・作文などの仕事が人工知能に置き換わり、未来社会では弁理士の仕事はなくなるのではないか、という極論まで出ています。弁護士、医師、会計士なども同様で、若者の志望校選択や職業選択にも大きな影響を与えています。
結論から言えば、①弁理士としての仕事の一部は人工知能に概ね置き換えられ、②他の一部は人工知能によって弁理士の直接関与する部分が削減され集約されるものの、③残りの部分(弁理士の仕事の骨格部分)は人間である弁理士でしか為し得ない固有の仕事として残る、と考えています。

この辺り(特に上記①および②の辺り)を、特許書類(特許明細書等)の翻訳の仕事を例に考えてみます。
例えば、翻訳は人工知能が最も得意とする仕事分野であり、近年でも人間が関与する部分はますます少なくなっています。しかも人工知能による翻訳は、和英/英和のようなメジャーな言語間に限らず、多種多様なマイナーな言語間の翻訳にも対応できます。翻訳を本業としている人にとっては大変な脅威ですが、複数の言語を使いこなして仕事している弁理士にとっても、バイリンガルの優位性が低下するという意味で脅威です。

特許翻訳は単なる科学技術文献の翻訳ではない、という点に留意が必要です。クレームや明細書等の特許書類は、法律と技術が混ざり合いつつ財産権の内容や価値を規定する法的技術文書であり、かつ、司法の場で企業等(特許権者と発明の実施者)が栄枯盛衰と存亡をかけて係争する際には、裁判所法廷での喧々諤々の議論により意味内容が解釈されていく法的技術文書です。したがって、科学技術文献の翻訳が完全に人工知能に代替えされた後であっても、特許書類の中で、特に権利の効力や有効性の解釈に晒されるクレームや明細書については、人間による翻訳仕事がすべて人工知能による機械翻訳に置き換わることはないでしょう。
そうは言っても、特許翻訳のベースが人工知能で対応できるとすると、人間が関わるのは特許翻訳の要所や節目(権利範囲や有効性の解釈のポイント)での技術用語の判断や文脈調整などが中心となりますから、翻訳を本業ないし主要業務としている人に関して言えば、それらの人工知能で対処できない高度な判断や調整ができる翻訳能力とスキルを培っていくことが必要になります。

次に、上記②および③の辺りの例として、発明の特許性判断の仕事について考えてみます。
特許性の判断には、大きく分けて新規性(対象発明が公知文献等の発明と同一か否か)の判断と、進歩性(対象発明が公知文献等の発明に基づき容易に想到できるか否か)の判断の2つがあります。結論を先に言えば、新規性の判断は人工知能が翻訳の次に得意とする仕事ですが、進歩性の判断は人工知能が不得手とする仕事と考えて良いでしょう。

判断対象の発明が、特許書類(クレームや明細書)において文章表現されている場合には、人工知能が発明を技術思想として把握する精度が高くなります。このため、特許公開公報のような公知文献に記載された発明との異同を人工知能が評価することも、一定程度までならば不可能ではないでしょう。近い将来、例えばGoogleのような先進IT企業が「発明の新規性判断ツール」をネットで公開し、弁理士や発明者がこのツールを特許出願前の新規性判断に活用する、というようなことが現実となるかもしれません。また、特許庁で審査官により行われている実体審査のうちの新規性の判断においては、人工知能で代替えできる部分が徐々に増えていくかもしれません。

ところが進歩性の判断は、公知の発明によって規定される技術水準から見た対象発明の構成の困難性を判断するものですから、対比すべき二つの発明の異同を評価する新規性判断とは事情が異なります。判断対象の発明が、たとえクレームや明細書で文章表現されていたとしても、公知の技術水準から見た容易想到性の判断(進歩性の判断)を人工知能で代替えすることは、不可能とまでは言えないまでも非常に困難性が高いでしょう。そもそも、公知文献の発明を人工知能が把握できたと仮定しても、この公知発明の組み合わせ等に基づき公知の技術水準を人工知能が理解するのは相当ハードルが高いので、近い将来に人工知能が進歩性を判断するようになることを想定するのは現実的ではありません。

進歩性の判断は、弁理士業務の節目で不可欠となる知的財産専門家としての知的活動です。出願前の発明相談や出願の可否判断、出願準備段階での権利化方針の策定、出願後の中間処理での対特許庁応答方針の策定、等々の権利化プロセスの節目で必須不可欠の判断となります。弁理士の仕事には、人工知能に代替えされていく種類の仕事と、代替えが困難であって人間である弁理士が担うことが求められる種類の仕事がありますが、弁理士の主要業務は後者の種類の仕事です。

人工知能に代替えできない後者の仕事こそが弁理士の本来業務であり、これからの弁理士は、このような仕事をバリバリ処理していく高度な実務能力と仕事スキル、さらには人工知能を使いこなして自らの武器としていく知恵を培っていく必要があります。

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プロローグ

第1部 王道を行く弁理士試験勉強法

第2部 短答・論文・口述式試験対策各論

第1章 短答試験

第2章 論文試験

第3章 口述試験

第3部 受験生活を乗り切り、不合格を乗り越える

第4部 弁理士を志望している方に「本音ベース」で贈る言葉

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