緒言.弁理士資格を取得する価値は、いかほど?
弁理士として知的財産の分野で生きていく道が、自分の将来の進路として好適な選択肢であるか否かは、簡単には言い尽くせない、たいへん悩ましいテーマです。この問題を具体的に紐解くためには、次の3点を検討する必要があります。
第1は、知的財産および知的財産制度の将来性です。
知的財産の中心(「核心」といっても良い。)は、特許制度で保護される発明、意匠制度で保護されるデザイン、商標制度で保護されるブランドの3つです。知的財産制度は、知的財産に対する独占排他的な支配権を媒介として、知的財産の保護と利用を図ることにより、新たな知的財産の創出を促進しつつ、産業の発達に寄与する社会的・法律的なシステムです。
結論から言えば、この世界から私有財産制が消えてなくならない限り、知的財産制度の必要性は高まることはあっても希薄化したり消滅したりすることはないでしょう。知的財産および知的財産制度の双方には十分な将来性があります。このテーマは次回の「第1話」で具体的に検討します。
第2は、弁理士の仕事と、その将来性です。
弁理士は、知的財産制度を専門とする国家資格者です。特許権などの知的財産権を取得したい方のために、代理して特許庁への手続きを行う権利化業務が弁理士の主な仕事です。また、知的財産の専門家として、権利化業務以外の各種の知的財産業務を行います。知的財産および知的財産制度の双方には十分な将来性があることを踏まえた上で、弁理士およびその仕事の将来性はどうなのかを考えます。
最近、人工知能(AI)が人間の仕事を脅かすのではないか、という議論が盛んです。弁理士に限らず、弁護士、医師、会計士なども同様で、若者の志望校選択や職業選択にも大きな影響を与えています。結論から言えば、弁理士としての仕事の一部は人工知能に概ね置き換えられ、他の一部の仕事は人工知能によって弁理士の直接関与する部分が削減されます。しかし、弁理士の仕事の骨格部分(本質的かつ重要な部分)は、人間である弁理士でしか為し得ない固有の仕事として残るでしょう。このテーマは、弁理士の仕事の骨格部分は何なのかという問題でもあり、「第2話」と「第3話」に分けて具体的に検討します。
第3は、弁理士としての仕事が「自分に適しているか否か」です。
弁理士としての適性があるか否かは、自分自身の能力や得手、不得手から考える一方で、自分自身の特性や特徴からも考えるべきでしょう。弁理士は、対人関係の中で仕事しますから、コミュニケーション能力が必要不可欠です。他方で、弁理士は一種の文筆家ですから、作文が不得手だという人は適性がありません。このテーマは、どのようなタイプの人が弁理士に向いているのか、という問題でもあり、「第4話」で具体的に検討します。