第3話.「必ず正解したい」種類の問題と、「できれば正解したい」種類の問題
短答式試験問題の基本は、問題の枝の文章中に“誤った記述”を発見できるか否かにあります。問題の枝の文章中に誤った記述を見出した時には、その枝が誤っていると判断することができます。逆に、その枝の文章中に誤った記述を見出すことができない時には、その枝が正しいと判断することになります。
短答式試験の問題は全部で60問ですから、全部で60×5=300枝あります。この枝の文章中に誤った記述がチラホラと忍び込ませてありますから、これを発見するのが試験/受験の基本です。つまり、各枝の文章から誤った記述を探し出すことができれば、それが誤った枝となりますから、「次のうち誤りはどれか?」という問い方の問題に正解することができます。
短答式試験の問題文は、その問い方に8つのパターンがあり、これを種類で分類すると、下記のAからDの4つのタイプになります。
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Aタイプ:正しい枝はどれか? 正しい枝の組合せはどれか? 最も適切な枝はどれか?
Bタイプ:正しい枝はいくつあるか?
Cタイプ:誤りの枝はどれか? 誤りの枝の組合せはどれか? 最も不適切な枝はどれか?
Dタイプ:誤りの枝はいくつあるか?
この4タイプのうち、AとCは正統派の問い方ですが、BとDは邪道の問い方です。「邪道」というと言葉は悪いですが、本来の正統的な問い方ではないからです。例えば、問題の枝がイロハニホの5つあって時、イとロのみが誤りであるときは、「誤りがいくつあるか?」の問いに対する正解は「2つ」となります。
ところが、受験者が誤り枝はイとホと考えても(ホを間違って選択しても)、あるいは、ロとニと考えても(ニを間違って選択しても)、さらには、両方とも間違えてハとホのみが誤りと考えていた場合も、「2つ」と解答することになるので正解になります。
このように「いくつあるか?」を問うような問題では、受験者の知識を正確に評価できない仕組み上の欠陥があるところから、私は邪道と呼んでいるのですが、残念なことに平成30年度の特許法・実用新案法の問題では邪道派が半分を占めているのです(次の表を参照)。
このような欠陥があることは試験の実施者側も承知しているのですが、それでは何故、欠陥のある出題の仕方を続けているのでしょうか? いくつかの理由や背景が語られていますが、ひとことで言えば受験者の平均的な“正解率を調整する”ための工夫の一つと考えると理解しやすいでしょう。現行の試験制度では、合格水準点をあらかじめ決めて事前に公表しているので、全体の正解率は高すぎても困るし低すぎても困るはずです。そこで、問題文の作成プロセスで問題の問い方を変えてしまえば手っ取り早く正解率は調整できる、というストーリーを描くことができませんか?
少し脱線しましたが、このような事情を考慮すると、「必ず正解したい」種類の問題と「できれば正解したい」種類の問題は、問題文の“問い方”で判別できます。結論から言えば、必ず正解したいのは正統派の問い方の問題であり、その中でも誤った記載をひとつ発見すれば正解できるCタイプ(誤りの枝はどれか?)が一番であり、次にAタイプ(正しい枝はどれか?)が必ず正解したい2番手となります。
一方、できれば正解したいのは邪道派の問い方の問題であり、Dタイプ(誤りの枝はいくつあるか?)の問い方もBタイプ(正しい枝はいくつあるか?)の問い方も、どちらも自信を持って解答できる受験者は多くないでしょう。ただし、十分な勉強を積んでいる受験者ならば、確実に外せる解答枝が2つや3つはあるので、最終的には二者択一あるいは三者択一になりますから、最後は「えいやっ!」で解答すれば当てずっぽうの五者択一よりも高い確率で正答することができます。
特実 | 意匠 | 商標 | 条約 | 周辺 | 合計 | |
A. 正しい枝、どれか? | 9 | 4 | 2 | 1 | 6 | 22 |
B. 正しい枝(組合せ)、いくつか? | 8 | 1 | 2 | 1 | 0 | 12 |
C. 誤りの枝、どれか? | 1 | 4 | 4 | 5 | 4 | 18 |
D. 誤りの枝(組合せ)、いくつか? | 2 | 1 | 2 | 3 | 0 | 8 |
上の表は、上述した「問い方」で昨年の本試験問題を分類した結果です。特許・実用新案法には邪道派の問い方の問題が多いのに対して、意匠法は邪道派の問い方の問題が少なく、周辺法(不競法、著作権法など)は全て正統派の問い方になっています。
この問い方の「傾向」から、試験本番の「対策」を立てることができます。まずは、試験が始まったら、周辺法の問題から着手し、次に意匠法の問題に取り掛かり、その次に商標法と条約の問題を済ませた後、残り時間を確認した上で、特許・実用新案法の問題に取り組むことを推奨します。特実から順番に問題を解いていったら邪道派の問題で悩んで途中で時間不足に慌ててしまい、最後の周辺法の正統派の問題は駆け足で読み込み不十分で解答してしまった、というのでは普段の勉強の成果が活かしきれず、悔しい思いをすることになります。
なお、平成30年度の場合は特実に邪道派の問題が集中していましたが、31年度もその傾向が維持されるとは限りません。試験委員が大幅に変わったり、発言力のある試験委員が入ったりすると、問い方も含めた問題の傾向も変わるので、その点は注意すべきです。ただし、正統派の問題が多い法律から先に問題を解いていく方が、少なくとも時間配分上で得策だ、というのは変わりません。
表を見るとわかるとおり、問い方が正統派の問題は60問中40問、邪道派の問題は60問中20問です。貴殿が「正統派の問題なら80%の確率で正解できる、邪道派の問題でも40%の確率で正解できる」とするなら、獲得点数は40×0.8+20×0.4=40点となるので、合格することができます(科目の足切りは別として)。
このように考えると、短答式試験に合格するのは難しくない、という気がしませんか?
合格できると信じて、残された短答式試験本番までの日々を、必死に頑張ってください。