第3話.基礎/初級講座を卒業したら独習ベースにすべし
受験講座が効果的なのは、初学から基礎/初級の間だけです。中級レベルに入ってきているのに受験講座に依存し、そのテキストを愛用しているようでは、短答試験の合格ラインの手前で足踏みしてしまいます。あなたが“普通の人”であるならば、勉強の重点を講座ベースから独習ベースに切り替えない限り、最終的な合格確率は低下します。中級レベルでは独習が受験勉強のベースであり、受験講座は補助的なペースメーカー程度に位置付けるべきでしょう。
中級者とは、短答試験で合格点に2,3点足りないレベルであり、これ以下の人は一人前の受験者にはカウントされません。勉強を始めて2年、3年が過ぎたのに、このレベルに到達できない人は、勉強法や勉強密度を見直して心機一転巻き返すか、あるいは受験から撤退するかしないと、受験指導機関にとってオイシイお客様で終わってしまいます。短答試験で合格点に2,3点足りないレベルまで来たら、初級/基礎レベルを抜けて中級レベルの勉強が始まります。受験講座に依存した基礎/初級レベルの勉強スタイルから、独習を重点とする中級レベルの勉強スタイルへの脱皮が大切です。
中級者の独習の基本書は青本(特許庁編:工業所有権法逐条解説)であり、基礎/初級講座のテキストなどはゴミ箱に放り込むのがお勧めです。受験指導機関のテキスト類が自分に合っている、馴染みやすいという人は、テキスト類を勉強のベース本として利用することも有りでしょう。しかし、その場合でも、テキスト類で学びながら逐次、青本の該当箇所を読み込む(条文も含めて)ことを忘れてはなりません。事実上、受験指導機関のテキスト類だけで勉強して青本を使わずに合格した人もいますが、確実に合格したい(合格できずに諦めるのは嫌だ)という人には、リスクが高い勉強法ですのでお勧めできません。
青本を基本書とすべき理由は、弁理士試験が国家試験だからです。青本は国家の行政機関である経済産業省特許庁編の公式の逐条解説であり、解説書のコンテンツ(条文および趣旨、字句の解釈等)は国家の立法機関である衆参両院での審議資料がベースとなっています。青本は正真正銘の国家による知財法の解説書であり、一方、弁理士試験は特許庁が所轄する国家試験ですから、弁理士試験勉強の基本書が青本になるのは当然至極のことであり、青本の他に基本書の類が存在するはずはありません(唯一の例外は国家の立法機関の判断たる最高裁判例)。
弁理士試験は国家資格試験ですから、国家として弁理士の素養と能力を備えた人材を選考するのが狙いです。青本をベースとする学び方は、知財法の基本に忠実な勉強ですから、弁理士に必要なリーガルマインドを獲得するための王道です。受験勉強を試験のためだけに終わらせるのではなく、資格取得後の弁理士としての活躍のベースを形成するための勉強であると位置付けて欲しいと思います。
「ほんやら日記」の記事からピックアップ(その2)
弁理士試験
特許事務所や企業の知財部に勤務している人、知的財産の仕事への転職や就職を希望する人なら誰でも知っている…弁理士試験の短答式試験が近づいています。これをもって「今年の試験は終わる予定」という人がいる一方で、これは論文試験を受けるための「単なる脚きり試験に過ぎない」という人もいるでしょう。
受験の目的は、人それぞれです。
「そこに試験があるから受ける」という人もいるでしょうし、「資格取得のマニア」を自称する人もいるでしょう。そして、「知的財産の世界で生活することを決めて、人生を掛けて受験する」という人もいます。そういう本気派(本格派?)の方に、私なりのアドバイスをすれば、“その先”を見通さない“短答式試験のためだけの勉強”はやめよう!…ということです。
弁理士試験に合格するには、先ずは短答式試験に合格するのが前提であり、これがないと話になりません。しかし、それは弁理士試験の最終合格までの第一歩に過ぎません。
短答式試験は…
試験に合格して弁理士となって、その立場で仕事をしていく長い職業生活の第一歩に過ぎません。短答式試験の合格から弁理士試験の最終合格まで、そして弁理士となってからの知財における長い職業生活において、一貫して大切なのは、“知財の法律的な考え方”と“知財における法律的な見方”です。
一般的なカタカナ用語で言えば、よく聞く「リーガルマインド」ということでしょう。このリーガルマインドから最も外れた短答式試験の勉強法は…いわゆる短答式試験の問題演習を中心とする勉強法です。特に、答練会の模試の“引っかけ問題”は最悪。実力のレベルを確認するために“本試験の過去問”を解いてみる、というのは必要なことです。
しかし、それは短答合否レベルの模擬的確認に過ぎません。
弁理士試験に本気モードで挑戦し、「知的財産の世界で生活することを決めて、人生を掛けて受験する」という人は、①条文、逐条解説、基本書の読み込みと、②これらに基づく“自作の要点整理”と、を組み合わせた勉強をオススメします。合格率が2%とか3%とか…そういう時代には、あまりに狭き門だったので、とにかく合格することが大切でした。プロセス抜きに、合格できれば“何でも有り”とも言えました。今は違います。合格率も大幅に上がり、門戸は広くなった。普通レベルの人が真面目に受験すれば、運が悪くなければ2,3年で合格できる試験になっています。
そういう時代には、「どのような勉強をして合格したか」というプロセスが大切になります。もちろん、合格できなければ話が始まりませんが、「知的財産の世界で生活することを決めて、人生を掛けて受験する」という人には、合格までのプロセスが大切になっています。
本気モードで受験される方は、“リーガルマインド”ということを忘れずに勉強してください。そして、この試験勉強を“世間に通用する知的財産権の一流の専門家を目指す道程の第一歩”として頑張っていただければ…と思います。
上記の「ほんやら日記」からのピックアップ記事は2006年05月14日のものです。この年は短答受験者9,298人に対して短答合格者2,878人(合格率30.1%)であり、合格者大量増産の真っただ中でした。それゆえ、知財法の基本的事項の理解も十分とは言えないまま短期合格する人(運の良い人)も多く、上記のブログでは「普通レベルの人が真面目に受験すれば、運が悪くなければ2,3年で合格できる試験」と評しています。しかし、今は全く状況が違います。これ逆に言うと、この当時の短期合格体験談は、今となっては余り参考にならない、ということです。
2017年の場合は、短答受験者3,213人に対して短答合格者287人(合格率8.9%)であり、短答式のハードルが明らかに高くなっています(合格率で3倍以上)。第1話では、受験者の共通の願いが、①できるだけ早く(長期戦は避けたい)、②できるだけ楽に(無駄な苦労や犠牲は最小限に)、しかも、③確実に合格したい(合格できずに諦めるのは嫌だ)という3点に集約されると述べましたが、どんなことがあっても必ず最後には合格の栄冠を勝ち取りたい、という真剣モードの受験者は、腰を落ち着けて基本に忠実な勉強を心掛ける必要があります。
昨今の状況下では、手っ取り早く合格しようと短期志向で走って基本を見失うと、結局は最終合格まで到達できずに資格取得を諦めてしまう結果になりかねない点に留意すべきです。