第2話.初学者は基礎/初級講座の門を叩くべし
弁理士試験の勉強の第一歩を踏み出す人は、まずは基礎/初級講座の門を叩くべきです。商業ベースの受験指導機関であろうとなかろうと、そんなことはお構いなく、勉強初心者は独学ではなく講座に学びに行くべきです。青本(特許庁編「逐条解説」)が基本書であり、かつ、弁理士受験勉強のバイブルであるのは間違いないですが、最初から青本の通読や熟読に取り組んでも、何が書かれているのかチンプンカンプンで、知財法の勉強が嫌になるのは必定です。
例えば特許法の全体像を樹木に例えると、樹木は根っこがあって幹があって、さらに枝があって小枝があって、その先に葉っぱがついています。独学ではこの全体像を読み取ることが難しく、どこに根っこがあってどれが幹なのか、その枝はどの幹から伸びていて、その葉っぱはどの枝のどの小枝についているのかを、自分なりに把握し理解するまでに無駄な努力を重ねてしまいます。その結果、知財法の勉強の面白さを見出すことができず、限られた時間を浪費して挫折することになりやすい。
基礎/初級講座を選ぶときは、この、知財法の全体像をよく把握していて明快に解説してくれる講師の講座が良いでしょう。例えば、合格して数年が過ぎて、少なくとも複数年は基礎/初級講座の解説を経験しているような中堅ないしベテラン講師の講座であれば、1時間の講座を聴くことで3時間分の独習と同等の効果がある、と考えて良いでしょう。
「ほんやら日記」の記事からピックアップ(その1)
知的財産法の初学者の体系的な勉強法は…やっぱり、良質の講義を聴くのが一番です。私も経験しています。独学の非効率性と、良質の講義を受けることの大切さ。
弁理士受験を志した1978年当時、私は独学で始めました。吉藤先生の特許法概説や、青本と呼ばれる逐条解説を買ってきて、読んでノートを作りました。かなりの労力をかけた。時間もかけた。実力の程度を測るために模試を受けたら、惨憺たる結果。
ボロボロ!
本を読んでいても、大事なところと、そうでないところが区別できない。それじゃダメ。また、知的財産法は、法律といっても憲法や民法とは異質の(関西風に言えば辛気臭い?)法律なので、独学では理解しにくい。
講義を聴くのが一番です。とりわけ、知的財産法の本質から話してくれる講義を聴くのが一番です。これが勉強のスタートです。
その次は、受験準備に手馴れた人から指導を受ける。
基礎/初級講座の門を叩くといっても、東京、大阪、名古屋などの受験環境に恵まれた都市部から離れた地方にお住いの方には、なかなか適切な講座が見つからない(存在しない)のが実情です。そのような場合は、大手受験予備校の通信講座やWEB講座を使って“観て聴いて学ぶ”と良いでしょう。講座に通って多くの受講者と一緒に講義を聴く、という臨場感はありませんが、地方で受験勉強する場合には受容するしかありません。
ここで、基礎/初級者向けのアドバイスを二つ書いておきます。
第1は、基礎/初級講座に通うようになると、それだけで自分は試験合格への道を順調に歩んでいるような錯覚に陥りがちですが、そんな甘いものではありません。仮に受講生が100人の講座だったとすると、将来的に最終合格までいけるのは半数以下であり、一般的な講座では受講生の多くは数年のうちに戦線離脱して2割か3割しか弁理士になれません。自分が通っている講座の受講生の平均レベルやそれ以下に甘んじているようでは、弁理士資格取得など単なる願望でしかない、と心得るべきです。基礎/初級講座に通って“観て聴いて学ぶ”勉強をしながら、寸暇を惜しんで自学自習することが欠かせません。
たいへん厳しいことを言うようですが、それが現実です。弁理士試験は、受験講座に通っていればお約束通りに合格が待っている、というようなお手軽な資格試験ではありません。資格試験は難関であればあるほど合格したときの価値が高いのですから、その試験の厳しさに前向きにチャレンジしていく心意気が必要です。
第2は、基礎/初級講座に通う傍らで、自学自習では何をテキストにするか、という問題です。まず、講座のテキストは、予習や復習に利用されることはあっても、講座から離れた自学自習には使えません。だからと言って、初学者が青本を読み込むのは、なかなかハードルが高い。そこで、知財法全般の基礎を固めるという意味で利用したいのが、政府刊行物の一つである「知っておきたい特許法」(工業所有権法研究グループ編著)です。
同書はタイトルが「…特許法」となっていますが、特許だけでなく実用新案、意匠、商標、不正競争、著作権さらに条約まで幅広く解説しており、知財法の全体系を把握するのに適しています。同書は青本のエッセンスの一部を取り込みながら、たいへん読みやすく書かれていますので、一度ならず二度、三度と繰り返し読むことで、青本をスムーズに読み込むことができる基礎力が培われます。
「知っておきたい特許法」だけでは、短答式試験に合格するためには、いま一歩、コンテンツとして足りないところがありますが、“まずは知財法の全体を体系的に理解する”という受験勉強の王道に沿っていますので、青本の通読・熟読に取り掛かる前の基本テキストとして活用できるでしょう。