[特許]CAFC、米国特許法101条の特許適格性を認める判決を相次いで下す (※追記あり)
(※続報は【関連記事】のリンク先参照)
・Enfish, LLC v. Microsoft Corporation (Fed. Cir. 2016) No. 2015-1244 ※特許適格性あり
・TLI Communications, LLC v. A.V. Automotive, L.L.C. (Fed. Cir. 2016) No. 2015-1372 等 ※特許適格性なし
・BASCOM Global Internet Services, Inc. v. AT&T Mobility LLC (Fed. Cir. 2016) No. 2015-1763 ※特許適格性あり
・Rapid Litigation Management Ltd. v. CellzDirect Inc. (Fed. Cir. 2016) No. 2015-1570 ※特許適格性あり
・McRO, Inc. v. Bandai Namco Games America Inc. et al. (Fed. Cir. 2016) No. 2015-1080 等 ※特許適格性あり
・Amdocs (Israel) Limited v. Opnet Telecom, Inc. (Fed. Cir. 2016) No. 2015-1180 ※特許適格性あり
2016年4月まで、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)が特許法101条(特許適格性、保護適格性;日本特許法の特許・実用新案審査基準における発明該当性に相当)に関して特許有効との判断を示したのは、Alice最高裁判決以降においてDDR Holidings v. Hotels.com事件(2014年12月5日判決)が唯一であった。これから約1年5か月の間をおいて、2件目となるCAFC判決が2016年5月12日にあった(Enfish, LLC v. Microsoft Corporation)。
このEnfish判決では、対象特許の1つ(US 6151604 A)の代表クレーム17に係る発明である「コンピュータメモリのためのデータ記憶及び検索システム(data storage and retrieval system for a computer memory)」にはコンピュータの機能における改良があることを理由として、「抽象的アイデア(abstract idea)」ではないとCAFCは判断している。すなわち、本件では、米国特許商標庁(USPTO)での審査に用いられる3ステップの分析のうち「ステップ2A(クレームは抽象的アイデアを対象としているか否か?)」において、特許適格性を認める判断をCAFCが示した点に本判決の大きな意義がある。
また、Enfish判決から5日後の5月17日、CAFCは、本判決を引用しつつ、今度は特許適格性なしとの判断をTLI Communications v. A.V. Automotive事件(対象米国特許:US 6038295 A、代表クレーム:クレーム17)に関して下している。
相次いだ両判決を受けて、USPTOは5月6日付けで公表していた「May 2016 Subject Matter Eligibility Update」の説明を補足する形で、5月19日付けの審査官向けメモランダムを提供している。したがって、今後のUSPTOの審査において抽象的アイデアであると審査官が認定した場合、当該メモランダムの内容を踏まえて、クレームに係る発明にコンピュータの機能における改良があることをもって抽象的アイデアではないと反論することがより有効になるものと考えられる。
さらに、CAFCは、2016年6月27日、BASCOM Global Internet Services v. AT&T Mobility事件で、USPTOによる3ステップの分析のうち「ステップ2B(クレームは、法的例外を有意に超える(significantly more;※初出時は「遥かに超える」と訳出)こととなる追加の構成要件を記載(recite)しているか?)」において、特許適格性を認める判断を示している(対象米国特許:US 5987606 A、代表クレーム:クレーム1,22及び23)。
これにより、抽象的アイデア(abstract idea)に関しては、Alice最高裁判決以降、DDR Holiding v. Hotels.com事件に関する判決とあわると3件でCAFCが特許適格性を認める判断を示したことになり、今後、USPTO及び裁判所における判断にも一定の方向性を与えることが期待される。
***追記(2016年7月6日、7月20日)***
2016年7月5日、CAFCは、凍結肝細胞の調製方法に関する米国特許(US 7604929 B2、代表クレームはクレーム1)についても特許適格性ありの判断を示した(Rapid Litigation Management Ltd. v. CellzDirect Inc.)。
なお、その後まもなく、USPTOは、本件Rapid Litigation Management判決及び先のSequenom v. Ariosa Diagnostics事件へのCAFC判決等に関する審査官向けメモランダム(2016年7月14日付け)を公表し、ライフサイエンス関連(自然法則/自然現象関連)の審査に関する指針を示している。
***追記(2016年9月14日、15日)***
2016年9月13日、CAFCは、アニメーションのリップシンク方法に関する米国特許(US 6307576 B1及びUS 6611278 B2 代表クレームはUS 6307576 B1のクレーム1)について、代表クレームは抽象的アイデアを対象とするものではないとの判断を示し、連邦地裁に差し戻した(McRO, Inc. v. Bandai Namco Games America Inc. et al.)。
※判決文の訂正があったため、記事冒頭のリンク先を変更
***追記(2016年11月8日)***
2016年11月1日には、ネットワーク関連技術(特に、accounting and billing for services in a computer networkなど)の米国特許(US 7631065 B2、US 7412510 B2、US 6947984 B2及びUS 6836797 B2)について、CAFCはクレームされた発明による先行技術の技術的改良、技術的課題の解決等に着目しつつ、特許適格性無しとした連邦地裁の判断を破棄して差し戻した(Amdocs (Israel) Limited v. Opnet Telecom, Inc.)。
また、翌日には、USPTOが、先のBASCOM Global Internet Services v. AT&T Mobility事件及びMcRO v. Bandai Namco Games America事件へのCAFC判決について言及した審査官向けメモランダム(2016年11月2日付け)を公表した。両判決の判示事項について注目できる点を挙げるとともに、先取り(Preemption)及び非先例の判決(Non-precedential decisions)の考慮についても説明を加えている。
【出典】
米国特許商標庁「Subject matter eligibility」
※冒頭の6件を含む裁判例リスト「Chart of subject matter eligibility court decisions(エクセルファイル)」、裁判例や抽象的アイデアの例を類型別にまとめたクイックリファレンス「Decisions holding claims eligible and identifying abstract ideas」等が随時更新されている。
【参考】
日本特許庁「産業財産権制度各国比較調査研究報告書(平成29年度研究テーマ):各国における近年の判例等を踏まえたコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状に関する調査研究」
※2017年12月7日に日本特許庁より公表された報告書で、冒頭の6件の概要も含まれている
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