[意匠/日本]意匠法の一部改正の法案について ~画像デザインの保護拡充、空間デザインの保護拡充、関連意匠制度の拡充、複数意匠一括出願等の改正へ~(※施行日に関する追記あり)
産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会で審議が続けられてきた意匠法改正であるが、当該改正を含む「特許法等の一部を改正する法律案」は2019年3月1日に閣議決定され、4月16日に衆議院を通過した。
追記:
同法律案は、2019年5月10日の参院本会議で可決されたことにより成立し、5月17日に「特許法等の一部を改正する法律(令和元年5月17日法律第3号)」が公布された。施行日は「一部の規定を除き、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」とされている。本稿で紹介している意匠法改正のうち、下記(1)~(3)は「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」で、下記(4)は「公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日」となっている。詳細は、法律・理由(PDF)の37頁以降の附則における施行期日を参照。※2018~2019年における意匠法・意匠法施行規則の改正及び意匠審査基準の改訂についての概要を示した表を含む記事はこちら
※本稿で取り上げる意匠法の改正に伴う意匠審査基準改訂に関する情報はこちらの「4. 意匠法改正に伴う今後の審査基準改訂について」参照
本法律案の概要(出典(1)参照)には「意匠法の一部改正」とあるが、保護対象を拡充したり、関連意匠制度の内容を大幅に変えるなど、意匠制度活用戦略や、具体的な出願戦術にも多大な影響を与える「大改正」である。
以下にその主な内容を紹介する。
(1)画像デザインの保護拡充
法律の構成としては、意匠法2条1項(意匠の定義)の中に、「物品」と並んで「画像」が規定された。これまでは、「物品」の枠内で何とか画像の保護を図ろうとしてきたが、物品の枠を超えて独立したカテゴリーとして画像が保護されることになる。具体的には、物品に記録されていないクラウド上に保存されてネットワーク経由で表示される画像や、壁・道路等に映写される画像なども保護対象となる。「乗換案内機能」を例にとると、従来は乗り換え案内アプリやその表示画像がスマーフォンにインストールされている必要があったが、今後は、スマートフォンから特定のウェブサイトにアクセスし、乗換案内機能を利用するような場合に表示される画像も保護可能となるだろう。
これまでの意匠制度小委員会での議論を踏まえれば、画像が単なる装飾的なものであって機器の機能に関連しないようなものは、これまで通り保護されない(たとえば、出典(3)の「報告書」3ページ(PDF)参照)。しかし、ネットワークを介してサービスを提供する事業者にとっては、より良いGUIの開発に際して、保護を図ることができる場面が増えることは間違いない。
(2)空間デザインの保護拡充
空間デザインの保護拡充は、2つの面から図られている。1つは、「建築物」が意匠法2条1項(意匠の定義)の中に「物品」と並んで規定されることによる。「物品」は取引可能な動産を指すものとされており、従来、大手ハウスメーカーなどが手掛ける量産可能な住宅などは、「組み立て家屋」として例外的に物品の範疇に入るものとして保護対象とされてきた。改正案では、不動産である建築物が保護対象となるため、組み立て家屋に限らず、広く建築物の保護が可能となる。近年話題になった戸建て型店舗の外観の模倣に対しては、建築物に係る意匠権を獲得することで対応し易くなるものと考えられる。
もう1つは、「内装の意匠」についての保護導入である。これは、組物の意匠のように、内装全体で統一的な美感を起こさせる場合に保護が受けられる。統一的なデザインの店舗を展開していくような場合には、そのデザインコンセプトを保護するために有効に働くかも知れない。ただし、私見ではあるが、内装を権利化した場合に、意匠権の権利範囲を広く確保するのは、非常に難しいように思う。内装に含まれる様々な什器等が権利の構成要素となるため、これらの一部が改変されたときに「登録意匠と同じ美感を奏するのか?」 という疑問符が付く。(同様の理由から組物の意匠制度の利用率も非常に低い。)
いずれにせよ、これら空間デザインの保護拡充は、建物や売り場等の統一したデザインによる企業のブランディングに寄与する可能性を秘めており、有効な活用方法について、創英でも色々と検討していく予定だ。
(3)関連意匠制度の拡充
今回、最も影響力の大きい改正である。内容としては次の通りである。
- 関連意匠の「後出し」が、本意匠の出願から10年以内まで認められる。
- 関連意匠にのみ類似する意匠を関連意匠として権利化できる。
この改正によって、長期間に亘って少しずつ製品をモデルチェンジしていく場合などに、その一連のシリーズをしっかり保護することができるようになる。
ただし、後出し可能な期間が10年とはいえ、他人が実施等して公知になった意匠と類似していれば、その関連意匠の出願は拒絶される。そのため、他人の動向を見て狙い撃ちするような後出し関連意匠の権利化はできない。
また、関連意匠にのみ類似する意匠を関連意匠として権利化できるため、関連意匠の無限連鎖が可能となる。これは、非常に広い権利網構築が可能となることを意味する。ぜひ有効に活用したいところである。
(4)複数意匠一括出願
複数の意匠を一括で出願できる手続きも導入予定である。しかし、これは誤解を生んでいるように思う。審査はあくまでも意匠ごとに行われ、権利も意匠ごとに発生する。特許庁は、意見募集に対するコメントで、複数の意匠を一括で出願することは認めても、意匠ごとの庁費用減額は困難である旨述べており(出典(3)の「報告書(案)に寄せられた意見の概要」11ページ(PDF)参照)、コストメリットはない。また、一括出願を行う事で権利範囲が広くなる等の効果もない。そのため、実質的なメリットはない(むしろ、管理が煩雑になると考えている)。この制度の導入は、ハーグ協定による国際意匠出願に合わせた措置であるとみるべきである。
(5)むすび
その他にも、間接侵害に該当する場合が拡充されたり、存続期間が出願日から25年になる等、改正は多岐に亘る(出典(1)の関連資料「概要」(PDF)参照)。
創英では、改正法について研究・検討を進めて、実務においてお客様に有効なご提案を行っていきたい。
【出典】
(1)経済産業省「「特許法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました」
(2)特許庁「産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会」※例えば第10回(平成30年12月14日)の議事録12~13ページ(PDF)では、出典(3)の「報告書」3ページでも言及がある画像意匠の権利範囲や空間デザインの保護に関して「細かい運用については今後検討」とあり、実務的な詳細は施行までに具体化される予定であることを確認できる。
(3)特許庁「産業競争力の強化に資する意匠制度の見直しについて-産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会-」
(4)特許庁「特許法等の一部を改正する法律(令和元年5月17日法律第3号)」
【参考】
衆議院「議案情報:閣法 第198回国会 32 特許法等の一部を改正する法律案 議案審議経過情報」
参議院「議案情報:第198回国会(常会)特許法等の一部を改正する法律案」
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***更新情報(2019年4月24日、5月22日)***
【出典】、【参考】及び【関連記事】の一部を修正・追加
***更新情報(2019年5月17日)***
特許法等の一部を改正する法律(令和元年5月17日法律第3号)の公布及び施行日に関する情報を追記
***更新情報(2019年5月20日、6月20日、8月5日日)***
【関連記事】を追加、追記の内容を一部変更