[特許/米国]特許訴訟提起件数は2年連続で減少、裁判地はテキサス東部からデラウェアへ ~ USPTOの当事者系レビュー(IPR)の申立件数、2017年は前年に比べて増加~
米国の知財関連サービス会社3社は、2017年の米国における特許訴訟についての統計を相次いで公表した(出典(1)~(3)参照)。
3社による公表データには統計手法の違い等に起因すると思われるばらつきがあるが、2016年に続いて2年連続で特許訴訟の提起件数が減少したことを推定できる結果となっている。2015年は改正連邦民事訴訟規則の影響による駆け込みが一因と考えられる件数増加があったため、これを例外とすれば、米国における特許訴訟は長期的にも減少傾向にあるとみられる(表1参照)。
※いずれの出典についても最新版を用いているため、昨年の公表データと件数は一致しない |
また、TC Heartland v. Kraft Foods Group Brands事件において、米国連邦最高裁判所は、特許権侵害訴訟を提起する裁判地を被告の住所地等に制限する判決を2017年5月22日に下したが、その影響により、テキサス州東部地区での提起が大きく減少し、デラウェア州地区を筆頭に他の地区での提起が増加したことがデータからも明らかになった(表2参照)。
※上段:出典(2)より、下段:出典(3)よりNPE(不実施事業体)に限定したデータ(TC Heartland後の数値は同じだが、デラウェア州が上回っているとの説明がある) |
デラウェア州地区での提起が増加した原因はデラウェア州を住所地としている米国企業が多いことにある。出典(2)及び(3)のデータによれば、大企業、ハイテク関連企業等が住所地としているカリフォルニア州中央地区(ロサンゼルスを含む)、カリフォルニア州北部地区(サンフランシスコ、サンノゼ等を含む)及びイリノイ州北部地区(シカゴを含む)は構成比が上昇しているが、デラウェア州と同様の原因と考えられる。なお、ニュージャージー地区(ニューヨークに隣接)及びマサチューセッツ地区(ボストンを含む)は構成比が低下した。
なお、米国会計年度(前年10月~当年9月)を区切りとするため数値と傾向は少々異なるが、裁判所(正式には、Administrative Office on the U.S. Courts)から公表されている報告書「Judicial Business of the United States Courts」における推移は表3のとおりで、全般的には表1及び表2から読み取ることができる傾向と類似している。
<表3:Judicial Business各年版における特許訴訟提起件数>
2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | |
全体(Total) | 3,301 | 4,015 | 5,189 | 6,497 | 5,686 | 5,564 | 5,080 | 4,319 |
テキサス州東部地区(Texas Eastern) | 446 | 738 | 1,061 | 1,386 | 1,620 | 2,181 | 1,963 | 1,231 |
デラウェア州地区(Delaware) | 273 | 380 | 809 | 1,492 | 1,123 | 662 | 526 | 749 |
※各年の元データにアクセスするには年の数字をクリック、2005年以降の提供データはこちら |
このような変化が認められる中で、米国特許商標庁(USPTO)審判部(PTAB)での付与後手続きについては、当事者系レビュー(IPR)の申立件数が横ばいだった2016年の件数を上回る1,720件となった(図2参照)。
また、付与後レビュー(PGR)及びビジネス方法特許に関する暫定プログラム(CBM)の申立件数は表3に示す通りで、特にCBMは2014年と比べて約1/5まで減少した。出典(5)においてデータが公表されている2017年3月までの範囲では、PGRとCBMについては、審理初期の「開始に関する決定(Decision on Institution)」の段階で終結することがIPRと比べて多くなっている点も興味深い傾向である。
【出典】
(1)Lex Machina「Q4 2017 End of the Year Litigation Update」
(2)Unified Patents「2017 Patent Dispute Report: Year in Review」
(3)RPX「2017 in Review: A Year of Transition」
(4)United States Courts「Judicial Business of the United States Courts」
(5)米国特許商標庁「AIA Trial Statistics」
【参考】
特許庁「知的財産国際権利化戦略推進事業報告:平成29年度 海外における知財訴訟の実態調査(PDF) 」※海外の知財訴訟に関する実態把握を目的として実施された調査の報告書で、中国、韓国、米国、英国、ドイツ、フランス、タイ、インドネシア、台湾、インド及び日本における知財訴訟件数のほか、日本以外については、知財制度、裁判所構造および知財訴訟の流れが紹介されている
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vol. 70 知財情報戦略室:米国特許法改正施行後における他者への対抗手段~USPTO公表資料から見る利用傾向~(PDF) 2014-04-01
vol. 71 知財情報戦略室:データから見る米国特許訴訟の現状(PDF) 2014-08-01
vol. 76 知財情報戦略室:日米欧中韓における特許付与後手続の基礎知識(PDF) 2016-04-01 ※記事中の米国・当事者系レビュー、付与後レビューについて料金改定の情報はこちら
vol. 81 知財情報戦略室:データで見る中国における知的財産権の現状 ~特許権侵害訴訟の近況を交えて~(PDF) 2017-12-01
***更新情報(2018年9月18日)***
【参考】に「海外における知財訴訟の実態調査(PDF) 」を追加
***更新情報(2019年3月11日)***
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