[特許]当事者系レビュー、差止請求権等に関する米国特許法改正案が上院に提出される
アメリカでは、連邦最高裁が当事者系レビュー(IPR)の合憲性について審理することを2017年6月12日に決めたばかりであるが、議会及び産業界においてIPRに関する動きが相次いでいる。
上院では、6月21日に特許法改正案S.1390「STRONGER Patents Act of 2017」が提出された。発起人であるCoons議員のウェブサイトでの要約によれば、同案には、IPR等の登録後レビューの手続きにおけるクレーム解釈を連邦地裁の基準に揃える改正をはじめ、差止請求権の容認や誘引侵害(induced infringement)の要件に関する改正が含まれており、特許権者の権利強化に繋がる内容が中心となっている。なお、今回の改正案に米国特許法101条の特許適格性に関する事項は含まれていない。
この「STRONGER Patents Act of 2017」に関して、産業界ではMedical Device Manufacturers Association(MDMA; 米国医療機器製造業協会)等が賛同する意見を示している。
一方、下院司法委員会の司法・知的財産及びインターネット小委員会では、「米国ビジネスにおける悪質な特許の影響」と題する公聴会が7月13日に開催された。公聴会では、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)の元首席判事であるPaul Michel氏等が、IPRを含む特許制度改革のほか、特許適格性に関するAlice事件等の近年の最高裁判決について証言を行っている。
この下院公聴会に関して、Adobe社、Amazon社、Cisco社、Dell社、Google社、Intel社、Oracle社及びSalesforce社のハイテク企業8社からなる「High Tech Inventors Alliance(HTIA)」は支援の立場をウェブサイトで表明している。その中で、HTIAは、IPRが特許の質を改善することにより米国特許制度を強化するものであり、現時点でIPRの効力を弱めることは不要かつ軽率であるとの見解を示している。
このHTIAによる見解は、「STRONGER Patents Act of 2017」に対するMDMAの賛同意見とは異なる方向性と考えられることから、当事者系レビューに対する見方が業種によって異なっていることがわかる。
現地では「STRONGER Patents Act of 2017」が成立する見込みは高くないとの見方も目立つが、IPRについては連邦最高裁での合憲性に関する審理(判決内容の速報を含む記事はこちら)とあわせて、今後が注目される。
【出典】
Congress.gov – Library of Congress「S.1390 – 115th Congress (2017-2018)- STRONGER Patents Act of 2017」
U.S. Senator Christopher Coons of Delaware「Senators Coons, Cotton, Durbin, Hirono introduce bipartisan bill to protect US patent holders, inventors」
House of Representatives Judiciary Committee「Goodlatte Statement at Hearing on the Impact of Bad Patents」
Medical Device Manufacturers Association「MDMA Statement on the “STRONGER Patents Act”」
High Tech Inventors Alliance「HTIA Statement in Support of House Judiciary IP Subcommittee Hearing」
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