[特許]米国連邦最高裁、当事者系レビュー(IPR)に関する2件の審理開始を決定 ~IPRの合憲性も審理へ~(※判決について追記あり)
(※判決の内容は、追記(2018年4月25日)を参照)
米国連邦最高裁は本会期(October Term 2016)において、知財関連では2017年6月末までに特許訴訟提起の裁判地(TC Heartland事件)、特許権の消尽(Lexmark事件)、米国商標法の誹謗に関する規定(disparagement provision)の合憲性(Tam事件)等について判決を下した。さらに、5~6月にかけて、米国連邦最高裁は、当事者系レビュー(IPR; inter partes review)に関する下記を争点とする2件について審理することを決定した。
Oil States Energy Services v. Greene’s Energy Group (No.16-712)
現存する特許の有効性を分析するために米国特許商標庁(USPTO)によって用いられる対審手続き(adversarial process)である当事者系レビューは、陪審不在であり憲法3条裁判機関ではない延※(non-Article III forum without a jury)によって私的財産権(private property rights)を無効にする点で憲法に違反するか否か。
(※注:本件ではUSPTOの特許審判部(PTAB)のことで、PTABは行政上又は手続上に関する問題についての管轄を有する憲法1条裁判機関(Article I tribunals)に該当する。連邦地方裁判所等の憲法3条裁判機関(Article III tribunals)と異なり、憲法1条裁判機関においては当事者は陪審裁判を受ける憲法上の権利が認められていない。)
SAS Institute v. Matal (No.16-969)
米国特許法(35 U.S.C.)318条(a)項は、当事者系レビューの申立があった全てのクレームを対象として最終書面決定(final written decision)を下すことを求めているか否か。
両事件とも、遅くとも、次会期(October Term 2017)の2018年6月末までには判決が下されることが予想される。
なお、下級審である連邦巡回控訴裁判所(CAFC)では、当事者系レビュー審理中の補正を争点とするIn re Aqua Products事件が大法廷で審理されており、あわせて判決が注目されている。(追記:現地時間の10月4日にCAFCの大法廷判決があった(Aqua Products, Inc v. Matal)。判決は、IPRにおける補正後のクレームに特許性がないことの立証責任を申立人に負わせることを趣旨とするもので、従前は特許権者が特許性を立証していた実務が変更されることになった。なお、判決文は全体で148ページにわたる長さで5つの意見を含み、判事の見解が複雑な入り組んだものとなっている。)
***追記(2018年4月25日)***
現地時間の2018年4月24日、両事件への判決が下された。
まず、Oil States Energy Services v. Greene’s Energy Group事件において、米国連邦最高裁は当事者系レビューの合憲性を認めた。したがって、当事者系レビューの制度は今後も継続することになる。
一方、SAS Institute v. Iancu事件(※USPTO長官の就任により、事件名変更)においては、法318条(a)項は当事者系レビューの申立があった全てのクレームを対象として決定することを求めていると解釈すべきであると米国連邦最高裁は判断した。これにより、開始に関する決定(Decision on Institution)において一部のクレームのみを審理対象とすることが可能な運用を行っていたUSPTOの実務は変更され、申立があったクレームのうち一部のクレームのみが審理開始基準(当事者系レビューの場合は、”Reasonable likelihood”)を満たす場合であっても、申立があったすべてのクレームを審理対象にすることになると考えられる。
【出典】
米国連邦最高裁判所「Docket Search」
米国連邦巡回控訴裁判所「OPINIONS & ORDERS」
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***更新情報(2017年8月8日、10月5日、10月6日、2018年4月25日)***
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