[特許]米国特許法101条を巡る状況(2017年1~5月) ~「特許適格性あり」の新たなCAFC判決も~
(※続報は【関連記事】のリンク先参照)
抽象的アイデア(abstract idea)については進展が続いていた米国特許法101条の特許適格性(保護適格性;日本特許法の特許・実用新案審査基準における発明該当性に相当)を巡る状況だが、米国特許商標庁(USPTO)が2017年5月30日付けで更新した裁判例リスト「Chart of subject matter eligibility court decisions(エクセルファイル)」によれば、2017年に入ってから5月までで、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)はすでに16件について判断を示している(※エクセルファイルでは「Federal Circuit」のシート)。そのうち、下記の2件について、CAFCは「特許適格性あり」の判断を示している。
- Trading Technologies International, Inc. v. CQG, Inc. et al.(2017年1月18日判決)
非先例(nonprecedential)とされているが、対象米国特許(US 6772132及びUS 6766304)の代表クレームは、グラフィカル・ユーザー・インターフェース(GUI)を使用した電子取引関連の方法クレームであり、ビジネスが関連する発明について特許適格性ありの判断が示されたという点で興味深い。判決において、CAFCは、先例に沿って、コンピュータの動作方法に関する特定の改良や、ソフトウエア分野における課題の解決を考慮した上で、抽象的アイデアに向けられたもの(directed to)ではなく、また、発明概念(inventive concept)を有することから特許適格性ありとした連邦地裁の判断を支持した。 - Thales Visionix Inc. v. U.S.(2017年3月8日判決)
対象米国特許(US 6474159)の独立クレーム1及び22はそれぞれ、物体の移動を追跡するためのシステム及び物体の向きの決定方法に関する発明で、クレームは短いものの、追跡対象の物体に搭載された慣性センサー等に関連する限定がある。判決において、CAFCは、クレームされた慣性センサーの特定の構成や慣性センサーからの生データを使用する特定の方法を明記していることをもって、数式そのものをクレームするものではないとして、抽象的アイデアではないと判断している。
なお、これら2つの判決を反映させつつ、USPTOは、主な裁判例や抽象的アイデアの例を2ページにまとめたクイックリファレンスを2017年5月30日付けで更新している。今後は、既報で取り上げたMcRO事件及びBASCOM事件に関する2016年11月2日付け公表の審査官向けメモランダムと同様に、今回の判決に関する解説を含むメモランダム等の形にて、オフィスアクションへの対応時に参照できる資料が早期に提供されることが期待される。
【出典】
米国特許商標庁「Subject matter eligibility」
【参考】
日本特許庁「産業財産権制度各国比較調査研究報告書(平成29年度研究テーマ):各国における近年の判例等を踏まえたコンピュータソフトウエア関連発明等の特許保護の現状に関する調査研究」
※2017年12月7日に日本特許庁より公表された報告書で、上記のTrading Technologies v. CQG事件及びThales Visionix v. U.S.事件の概要も含まれている
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