[特許/EU、EP、英国]欧州単一特許及び統一特許裁判所の進捗状況(2016年6~7月) ~ブレグジットの影響が懸念されるも準備は続行~ (※イギリスの批准意向について追記あり)
(※続報は【関連記事】のリンク先参照)
英国のEU離脱(Brexit;ブレグジット)の影響により、制度開始の遅れを予想する声も多い欧州単一特許(UP;欧州単一効特許)及び欧州統一特許裁判所(UPC)であるが、2016年7月末時点において準備作業は中断されることなく続けられている。
まず、ブルガリアが6月3日にEU理事会に批准を通知したことで、UPC協定の批准国数は10か国(オーストリア、ベルギー、ブルガリア、デンマーク、フランス、ルクセンブルク、マルタ、ポルトガル、スウェーデン、フィンランド)となった。すでにオランダが批准手続の最終段階に入っていると伝えられており、あとは必須とされているドイツ及び英国の批准が実現すれば、発効は確定する。その上で最大の障害となる英国の批准に関して、今後想定されるシナリオには大きく分けて次の3つがあると言われている。
- EU離脱前に英国がUPC協定を批准し、離脱にあわせて破棄
- 英国が批准しないことを前提にして、UPC協定を修正
- (EUの基本条約である)リスボン条約50条に基づく英国のEU離脱交渉(2年間(延長有))の後にUPC協定を修正
この中で、シナリオ1が早期に実現されれば、英国の国民投票直前の頃に予想されていた「2017年前半」から大きく遅れることなく、UP及びUPCの両制度が開始される可能性は残る。このシナリオ1に関連して、欧州特許庁のBattistelli長官は7月11日付けのブログ記事において、英国が早期にUPC協定に批准し、EU離脱交渉において両制度に引き続き参加する地位を得ることを「ベストなシナリオ」として挙げている。しかしながら、欧州連合司法裁判所(CJEU)による2011年の判決「Opinion 1/09」等を理由として、このような「ベストなシナリオ」に対して懐疑的な見方は少なくない。
一方、UPCの準備委員会は、7月1日、ブレグジットの影響は今後数か月間での政治的決定に大いに依存するとして、準備を続行するとの声明を欧州特許機構特別委員会との連名にて出している。その後も、840人の応募があったとされる裁判官の募集が7月4日で締め切られ、IT関係では案件管理システムのベータテストサイトでアップデートがあったことが現地の知財系ブログで伝えられており、声明のとおりに準備は進められている模様である。
なお、次回のUPC準備委員会会合は、2016年10月前半に開催が予定されており、その時点での状況を踏まえて、あらためて今後の方針が検討されるものと考えられる。
【出典】
欧州特許庁「Blog: The future of the Unitary Patent package」
欧州統一特許裁判所「17th Preparatory Committee – 30 June 2016」
***追記(2016年11月29日)***
現地時間の11月28日、英国知的財産庁(UKIPO)のプレスリリースにて、イギリスが統一特許裁判所(UPC)協定に批准する意向であることが発表された。プレスリリースでは、今後批准に向けた準備を進めることとあわせて、EUとの今後の交渉におけるイギリスの目的又は立場を先取りするものではないとの言及がある。そのため、今後、本文中のシナリオ1に沿って離脱にあわせて協定を破棄するのか、または、欧州特許庁長官が挙げた「ベストなシナリオ」に沿ってEU離脱後もイギリスがUPC協定に留まるかは、交渉の結果次第になるものと考えられる。
また、欧州統一特許裁判所(UPC)は、同日付けでイギリスが協定に批准する意向を示したことを伝えるとともに、運用開始までのロードマップを改訂し公表するとしている。
さらに、欧州特許庁(EPO)は、翌11月29日付けでイギリスの意向を歓迎する趣旨の長官によるコメントを公表し、現在、イギリスのほかに、ドイツ、イタリア、スロベニア及びリトアニアの計5か国においても批准の準備が進んでいることを伝えている。なお、オランダは9月に批准手続きを完了しているため、これらの国すべてが手続きを完了すれば批准国数は16か国となる。
【出典】
英国知的財産庁「UK signals green light to Unified Patent Court Agreement」
欧州統一特許裁判所「Update on UPC ratifications – UK signals green light」
欧州特許庁「EPO President welcomes UK decision to ratify UPC Agreement」
【参考】
欧州理事会「Agreement on a Unified Patent Court」 ※UPC協定の批准状況を確認できる
田名部 拓也「欧州単一特許制度の行方」(特技懇 275号 2014.11.14)
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