[特許]米国最高裁、2016年は「故意侵害」等を判断へ (※判決及び他の係属中事件に関する追記あり)
米国では、特許法101条の特許適格性(保護適格性)をはじめとして特許実務に大きな影響を与える最高裁判決が相次いでいるが、2015年12月末時点では下記の2件について上告が受理され、係属中となっている。
- Halo Electronics, Inc. v. Pulse Electronics, Inc(No. 14-1513)
- Stryker Corp. v. Zimmer, Inc.(No. 14-1520)
これらは、いずれも故意侵害(willful infringement)に対する損害賠償(米国特許法284条)が争点となっていることから、2016年2月23日にあわせて口頭弁論が実施される予定となっている。
現在、故意侵害の判断は、In re Seagete Technology, LLCの連邦巡回控訴裁判所(CAFC)大法廷判決(2007年)での「2段階テスト」に基づいており、有効な特許を侵害する可能性が客観的に高い行為を被疑侵害者が行ったこと(客観的要件)、及び、その客観的な可能性を被疑侵害者が知っていた又は知っているべきであったこと(主観的要件)に関する立証が特許権者に求められている。最高裁では、法284条に照らして、この「2段階テスト」を厳格に適用することに誤りがあるか否かが審理されることになっている。そのため、最高裁の判断によっては、故意侵害による三倍賠償を回避する目的で非侵害又は無効の鑑定書(オピニオン)を取得することの意義に影響が出る可能性もある。
なお、近年の最高裁判決と同様のスケジュールであれば、口頭弁論の実施後、2016年4月~6月頃の判決が予想される。
また、2016年に入ってから、最高裁は知的財産権に関連する下記の2件についても上告を受理した。
- Cuozzo Speed Technologies, LLC v. Michelle K. Lee (No. 15-446)
AIA(2011年改正)により導入された当事者系レビュー(inter partes review; IPR)におけるクレーム解釈(broadest reasonable interpretation)、および、審判部(PTAB)の審理開始決定(Board’s decision whether to institute an IPR proceeding)の再審理 - Supap Kirtsaeng, dba Bluechristine99 v. John Wiley & Sons, Inc. (No. 15-375)
著作権法505条の下で勝訴当事者に認められる弁護士費用の裁定基準
他に上告があった事件には、意匠権(Design Patent)の侵害に対する損害賠償額の算定に関するSamsung Electronics Co., Ltd., et al. v. Apple Inc. (No. 15-777)があり、最高裁が受理するか否かが注目される。
(※追記:最高裁は、意匠権侵害に対する損害賠償の算定に関する点に限定して審理することを2016年3月21日に決定し、2016年12月6日に判決を下した。なお、もう1つの上告理由であった意匠権の権利範囲については審理されていない。本事件の概要についてはこちら)
***追記(2016年6月14日、16日)***
本文で取り上げた事件のうち、故意侵害に対する損害賠償が争点であったHalo Electronics, Inc. v. Pulse Electronics, Inc及びStryker Corp. v. Zimmer, Inc.の最高裁判決が2016年6月13日に下された。
判決において、米国最高裁は、特許法284条の適用における「2段階テスト」は柔軟性に欠く(rigid)として、これを否定し、損害賠償額の増額(enhanced damage)に関して連邦地方裁判所による裁量の幅を広げる判断を示した。なお、判決文の最後は下記の通りで、判決文の他の箇所でも「甚だしいケース(egregious cases)」に関する言及が見受けられることから、本判決の影響により直ちに特許侵害訴訟全般で損害賠償額が高額化する可能性は定かではないが、まずは、CAFC差戻審での判断が注目される。
(※CAFC差戻審での判断を含む続報の記事はこちら)
* * *
Section 284 gives district courts the discretion to award enhanced damages against those guilty of patent infringement. In applying this discretion, district courts are “to be guided by [the] sound legal principles” developed over nearly two centuries of application and interpretation of the Patent Act. Martin, 546 U. S., at 139 (internal quotation marks omitted). Those principles channel the exercise of discretion, limiting the award of enhanced damages to egregious cases of misconduct beyond typical infringement. The Seagate test, in contrast, unduly confines the ability of district courts to exercise the discretion conferred on them. Because both cases before us were decided under the Seagate framework, we vacate the judgments of the Federal Circuit and remand the cases for proceedings consistent with this opinion.
It is so ordered.
(※下線は筆者が付加)
【参考】
ジェトロ「米国発 特許ニュース:2016年6月22日 米国最高裁判決 損害賠償額増額のための基準を見直し」
***追記(2016年6月20日)***
著作権法505条に関するKirtsaeng事件の最高裁判決が2016年6月16日に下された。
【判決文】
Supap Kirtsaeng, dba Bluechristine99 v. John Wiley & Sons, Inc. (No. 15-375)
***追記(2016年6月21日)***
2016年6月20日、当事者系レビューに関するCuozzo事件の最高裁判決が下され、クレーム解釈及び審理開始決定のいずれについても、現状維持の判断が示された。
【判決文】
Cuozzo Speed Technologies, LLC v. Michelle K. Lee (No. 15-446)
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