[特許/WIPO(PCT)]2019年7月1日施行の特許協力条約に基づく規則(PCT規則)について ~「発明の名称」については、1月施行の改正実施細則により任意での英訳提出が可能に~
国際予備審査の開始に関するPCT規則69.1(a)の改正が2019年7月1日に施行される。これにより、出願人が国際予備審査の開始の延期(通常、優先日から22か月まで可)を請求しない限り、国際予備審査機関は、次の1.~3.の全てを受領した時は国際予備審査を開始することになる。
- 国際予備審査の請求書
- 取扱手数料及び予備審査手数料
- 国際調査報告書又はPCT17条(2)(a)に基づき国際調査報告を作成しない旨の国際調査機関による宣言のいずれか、及びPCT規則43の2.1に基づき作成された見解書
本改正は、早期の開始には請求が必要とされていた運用を逆転させるもので、2019年7月1日以降に国際予備審査請求書が提出された国際出願に適用される。
これにより、国際予備審査を早期に進められることが促進され、出願人と国際予備審査機関との間で複数回の連絡を行う時間が確保される結果、特許性ありと示された請求項(クレーム)が存在する国際予備審査報告(IPER)を得やすくなるメリットを期待できる。IPER等の国際段階成果物において特許性ありと示された請求項が存在すればPCT-PPHを利用することが可能であることから、PCT国内段階の早い時期にPPH(特許審査ハイウェイ)を利用する予定がある場合において、本改正のメリットを活用できると考えられる。
なお、WIPO statistics databaseの2019年6月更新時データによれば、下表のとおり、近年は日本特許庁を受理官庁とする国際特許出願(PCT出願)は増加が続いているが、国際予備審査報告の件数は2,000件弱~2,500件程度に留まっている。
〈日本特許庁を受理官庁とするPCT出願及び同庁を国際予備審査機関とする国際予備審査報告(IPER)〉
2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | |
PCT出願 | 41,292 | 43,097 | 44,495 | 47,425 | 48,630 |
国際予備審査報告(IPER) | 2,232 | 2,478 | 2,019 | 1,945 | 2,129 |
また、本改正に先立つ、2019年1月1日には実施細則406号の2が追加されたことで、優先日から14か月以内に国際事務局(IB)に「発明の名称」の英訳を出願人が任意で提出することが可能となった。IBは当該英訳を可能な範囲で考慮する。
今後の中長期的な計画では、国際調査及び国際予備審査の品質向上を目的とする施策が実施・検討されており(実施中の例としてはPCT協働調査)、他にもPCTユーザーの利便性向上を図る取り組みが引き続き行われる予定となっている。
【出典】
世界知的所有権機関(WIPO)日本事務所「WIPO国際出願制度セミナー:特許・商標・意匠の国際出願制度の利点と実務アドバイス(2019年5月20日開催)」
世界知的所有権機関(WIPO)「PCTニュースレター(日本語抄訳):2018年7-8月号(PDF)、2019年1⽉号(PDF)」
世界知的所有権機関(WIPO)「PCTリーガルテキスト:条約、規則及び実施細則」
日本特許庁「「特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律施行規則の一部を改正する省令案」に対する意見募集について」
日本特許庁「「特許協力条約に基づく国際出願等に関する法律施行規則の一部を改正する省令案」に対する意見募集の結果について」
日本特許庁「2019年7月1日以降に国際予備審査請求を行う際の注意点~国際予備審査請求書「第Ⅳ欄4.」のチェックについて~」
世界知的所有権機関(WIPO)「WIPO IP Statistics Data Center/WIPO statistics database – 最終更新:2019年6月」
【参考1】※【出典】で示したもの以外で国際出願(PCT、マドプロ、ハーグ)全般に関する情報
日本特許庁「特許庁各種パンフレット一覧:海外での権利取得に関すること」
日本特許庁「説明会テキスト」※各年の「初心者向けテキスト」、「実務者向けテキスト」にPCT、マドプロ、ハーグの国際出願制度を紹介するテキスト、資料等が含まれている
世界知的所有権機関(WIPO)「PCT – 国際特許制度」
世界知的所有権機関(WIPO)「マドリッド制度 – 商標の国際登録制度」
世界知的所有権機関(WIPO)「Hague – The International Design System」
世界知的所有権機関(WIPO)日本事務所「日本語のWIPO資料」※リンク先上部の「その他の知的財産イベント」とそのリンク先においても各種のセミナー資料等が提供されている
一般財団法人日本特許情報機構(Japio)「特許・情報フェア&コンファレンス 開催報告」※各年の開催報告において、WIPO提供のデータベース等を紹介する発表資料が提供されている
【参考2】※特許審査ハイウェイ(PPH)に関する情報
日本特許庁「特許審査ハイウェイについて」
日本特許庁「PCT出願の国際段階成果物を利用した特許審査ハイウェイについて」
日本特許庁「The Patent Prosecution Highway (PPH) Portal Web Site(日本語)」
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vol. 83 知財情報戦略室:特許出願の早期権利化手段と審査の国際的な取り組みについて(PDF) 2018-08-01
vol. 86 知財情報戦略室:比較から見る「特許協力条約(PCT)に基づく国際出願制度」の活用(PDF) 2019-08-01
***更新情報(2019年6月24日、8月10日)***
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