[特許・実用新案・意匠・商標/日本]特許法等の一部を改正する法律(令和元年5月17日法律第3号)が公布される
2019年3月1日の閣議決定後、国会で審議されていた「特許法等の一部を改正する法律案」が5月10日に可決・成立し、5月17日に公布された。主な改正事項は次のとおりで、施行期日は原則として「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」とされている。
○特許法の一部改正
- 査証制度の創設
特許権の侵害の可能性がある場合、中立な技術専門家が、被疑侵害者の工場等に立ち入り、特許権の侵害立証に必要な調査を行い、裁判所に報告書を提出する
※施行期日は「公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内において政令で定める日」
※査証制度を中心に取り上げた記事はこちら - 損害賠償額算定方法の見直し
(1)権利者の生産能力等を超える部分についての損害の認定
(2)侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額の考慮
→実用新案法、意匠法、商標法においても同様に改正
※施行期日は「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」
○意匠法の一部改正
下表に示すように、意匠法関係は改正・改訂が頻繁に行われている状況にあり、今回の法改正(令和元年5月17日法律第3号)による改正事項は表中の下2行となっている(なお、表において、公布から1年6月以内とされている改正事項(41条、60条の12第2項)は省略)。
〈2018(平成30)年以降の意匠法等改正及び意匠審査基準改訂の概要〉
適用/施行予定 | 改正又は改訂の対象 | 主な内容 | 関連記事 |
2018年5月1日以降の審査 | 意匠審査基準 | 1.出願書類に底面図が不足する場合の取り扱い 2.部分意匠として意匠登録を受けようとする部分の特定方法 |
(1) |
2018年6月9日以降の出願 | 意匠法(平成30年改正) 意匠審査基準 |
意匠の新規性喪失の例外期間を6か月から1年に延長(ただし、2017年12月9日以降に公開された意匠について、2018年6月9日以降に出願された場合) | (2) |
2019年1月10日以降の審査 | 意匠審査基準 | 複数の物品から成り立つものについて、一物品と判断される例と二以上の物品と判断される例の追加 | (3) |
2019年5月1日以降の出願 | 意匠法施行規則 意匠審査基準 |
1.一組の図面に係る要件の緩和 ①六面図が必須ではなくなる ②開示していない面が権利不請求部分とされ得る(→この場合、部分意匠として取り扱われる) 2.長い部材を中間省略するような意匠の図法と願書の記載の緩和 3.全体意匠と部分意匠の間でも、先後願や関連意匠の規定の適用判断を行う 4.願書の【部分意匠】の欄の記載が不要に |
(3) (6) (7) |
2020年1月1日(施行期日) | 意匠法(平成30年改正)※未施行分 意匠法施行規則 |
意匠における優先権書類の電子的交換制度の導入 | |
2020年春(施行見込み) | 意匠法(令和元年改正)等 | 1.保護対象の拡充(画像デザイン、空間デザイン等について) 2.関連意匠制度の見直し(「本意匠の出願から10年以内であれば登録可」、「関連意匠にのみ類似する意匠であっても登録可」) 3.存続期間の変更(「登録日から20年」を「出願日から25年」に変更) 4.間接侵害規定の拡充 ※施行期日は「公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日」 |
(5) |
2021年冬~春(施行見込み) | 意匠法(令和元年改正)等 | 複数意匠一括出願 ※施行期日は「公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日」 |
(5) |
既報で述べたように、本改正は意匠制度活用戦略等に多大な影響を与える「大改正」であるが、画像デザインの保護拡充を例にしても、願書における画像の用途の記載と要件上の判断、創作非容易性(3条2項)の審査における判断手法などの具体的な運用が注目されるところである。改正のベースとなった2019年2月公表の報告書「産業競争力の強化に資する意匠制度の見直しについて」を検討した産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会では、委員からの実務的な質問に対して「細かい運用については今後検討」と特許庁担当者が回答しており(第10回議事録(PDF)頁番号12~13参照)、今後、意匠審査基準ワーキンググループにおいて議論されると考えられる。
※意匠法令和元年改正に伴う意匠審査基準改訂に関する情報はこちらの「4. 意匠法改正に伴う今後の審査基準改訂について」参照
○商標法の一部改正
- 公益団体等(自治体、大学等)が自身を表示する著名な商標権のライセンスを認める等の措置
※施行期日は「公布の日から起算して10日」→2019年5月27日施行済み
【出典】
(1)特許庁「特許法等の一部を改正する法律(令和元年5月17日法律第3号)」
(2)特許庁「意匠審査基準」改訂案に対する意見募集(平成30年3月12日)」
(3)特許庁「意匠審査基準の一部改訂について(平成30年4月27日)」
(4)特許庁「意匠の新規性喪失の例外期間が6か月から1年に延長されます」
(5)特許庁「意匠審査基準の一部改訂について(平成30年6月6日)」
(6)特許庁「意匠審査基準の一部改訂について(平成31年1月9日)」
(7)特許庁「意匠法施行規則及び意匠登録令施行規則の一部を改正する省令(平成31年4月26日経済産業省令第49号)」
(8)特許庁「意匠審査基準の一部改訂について(平成31年4月26日)」※2019年5月1日以降の出願に適用される意匠審査基準について「今回の改訂箇所の参照資料(PDF)」等が提供されている
(9)特許庁「願書の【部分意匠】の欄の記載が不要となります」
(10)特許庁「不正競争防止法等の一部を改正する法律(平成30年5月30日法律第33号)」
(11)特許庁「特許法施行規則等の一部を改正する省令(令和元年6月19日経済産業省令第16号)」
(12)特許庁「産業競争力の強化に資する意匠制度の見直しについて-産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会-」
(13)特許庁「産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会」
(14)特許庁「産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会意匠審査基準ワーキンググループ」
(15)特許庁「公益著名商標に係る通常使用権の許諾が可能となります」
【関連記事】
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***更新情報(2019年6月20日)***
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***更新情報(2019年8月10日)***
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