[意匠/米国]ハーグ経由で出願した米国意匠出願の許可率
WIPOから、2022年の年次報告書(Hague Yearly Review 2022)が発表されている。
https://www.wipo.int/edocs/pubdocs/en/wipo-pub-930-2022-en-hague-yearly-review-2022.pdf
ハーグ協定への加盟国が増え、ハーグ出願(意匠の国際出願)の数も順調に増えているようだが、この報告書の中で1つ気になる統計がある。
それは、米国を指定した際の許可率である。
下の図にあるように、ハーグ経由で米国出願した場合、47.5%しか許可されていない。
(Hague Yearly Review 2022より引用)
ロシアはもっと低い数字だが、ロシア以外の主要国の中では米国は飛び抜けて拒絶される率が高いことになる。 一方、USPTOが出している許可率の統計(こちらは、ハーグを含む全ての米国意匠出願の統計)によると、米国意匠出願の許可率は約85%だ。そのため、ハーグ経由の米国出願の許可率は非常に低いように見える。
(USPTO Design Data August 2022より引用)
このようなことから、米国に出願する場合はハーグを使わない方がよいのではないか?と思われるかも知れない。
しかし、創英ではハーグ経由の米国出願を数多く取り扱っているが、50%以下という低い許可率ではなく、実感としては、米国に直接出願した場合との差はない。
したがって、創英としては、米国に出願する際にハーグをお勧めできない、という風には考えていない。拒絶理由等が公開されてしまうというハーグ独自のデメリットが問題にならなのであれば、ハーグ出願はコストメリットが高いため、引き続き、米国に意匠出願をする際の有力な選択肢である。
これは想像だが、ハーグ経由の出願は、出願の際に米国代理人の手が加えられないため、米国意匠実務に合わせた図面やDescription、Claim等の作成が十分にできておらず、拒絶率の高さに繋がっているのかも知れない。 拒絶を防ぐには、しっかりと米国を意匠実務を踏まえた上での出願準備が大切となる。
また、上記の統計は、単純にWIPOに通知されたオフィスアクションのうち、拒絶理由通知と許可通知の割合を示しているだけかも知れない。 米国意匠制度は他の国と異なる独自の方式的要件があるが、米国を念頭に置いたDescription等をハーグ出願の際に記載すると、他の審査国での拒絶理由通知に繋がったり、Word数が増えてWIPO手数料が高額になる等の事情もある。そのため、ハーグ出願の際に米国実務に気を付けていても、どうしても一度は拒絶理由通知を受けてしまうことがある。
このような事情で、統計上は拒絶理由通知の割合が高くなっているのかも知れない。
拒絶理由通知を受けても、ほとんどの場合、適切に応答すれば拒絶理由は解消し、許可が得られる。そのため、ハーグ経由で米国に出願することを必要以上に恐れず、メリットとデメリットを勘案し、積極的に利用していくのがよいと考える。