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[商標/日本]他人の氏名を含む商標の登録要件緩和

1.商標法4条1項8号法改正の概要
 第211回通常国会にて「不正競争防止法の一部を改正する法律(令和5年法律第51号)」が成立し、商標法4条1項8号が改正されることとなり、2024年4月1日に施行された。

 また、改正商標法4条1項8号にある「政令で定める要件」については、商標法施行令1条の改正により、その定義が追加された。

2.改正前の「他人の氏名を含む商標」に関する規定(商標法4条1項8号)のおさらい
 改正前の商標法4条1項8号は、「他人の氏名を含む商標」等について、商標登録を受けることができないことを規定している。その趣旨は、人は、自らの承諾なしにその氏名、名称等を商標に使われることがないという人格的利益を保護することにあると解されている。

 「他人の氏名」は、審査においては、電話帳やインターネット検索を活用して特定される。「他人」とは、自己以外の現存する者をいい、「氏名」とは、自然人の氏姓及び名前、つまりはフルネームをいう。「氏名」については、ローマ字表記の氏名も含み、また、ミドルネームがある場合には、これを含むフルネームが氏名にあたると解される。

 ただし、「他人の氏名を含む商標」であったとしても、その他人に承諾を得た場合には、商標登録を受けることができる(同号かっこ書)。

3.改正前の商標法4条1項8号における解釈の厳格化と改正への機運の高まり
 一昔前の審査・審判実務では、「他人の氏名」を含む商標あっても、ローマ字表記にして氏と名を逆に表示したり、氏名をスペースなく結合して表示することにより、商標登録が認められる場合もあった。

 しかし、近年では、人格的利益を過度に保護する傾向にあるためか、改正前の商標法4条1項8号では、条文上の文言を厳格に解釈する傾向にあり、商標の構成態様に関係なく「他人の氏名を含む商標」の登録が認められなくなっていた。

 また、過去に登録が認められた「他人の氏名を含む商標」も例外ではなく、近年は、同一人による出願で同一の氏名に係る商標が拒絶されているという事態も生じていた。

 そのため、現在において、「他人の氏名を含む商標」について登録を得るためには、存在する全ての同姓同名の他人から承諾を得る必要があり、非常にハードルが高いものとなってしまった。ここから、創業者やデザイナーの氏名をブランド名として採用する傾向にあるファッション業界を中心に、8号の要件緩和の要望があった。

 なお、その他の改正趣旨としては、新興ブランドのデザイナーの氏名を含む商標であっても登録を受けやすくなるようにすることで、中小企業やスタートアップ企業のブランド選択の幅を広げたいという理由や、他人の氏名に一定の知名度の要件を設けている諸外国と国際的な制度の調和を図りたい理由もあった。

4.改正後の商標法4条1項8号について
 商標法4条1項8号の改正により、「他人の氏名を含む商標」について「他人の氏名の周知性」と「政令で定める要件」の観点から登録の可否を判断することとなった。他人の氏名が周知の場合には、その他人からの承諾が必要で、かつ、政令で定める要件が必要となる。また、他人の氏名が周知ではない場合には、承諾を必要とはしないが、政令で定める要件が必要となる。

 なお、周知性の基準が適用されるのは「他人の氏名」(=自然人のフルネーム)のみであり、「他人の名称(商号等)」には適用されない点には注意が必要である。他人の商号(例:株式会社〇〇)を含む商標を登録するためには、周知性に関わらず、その他人の承諾を得る必要がある。

5.他人の氏名の周知性について(改正商標法4条1項8号かっこ書)
 他人の氏名の周知性(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名)とは、商標審査基準(改訂第16版)では、以下のように規定されている。

 商標審査基準の七、2.(1)によれば、「商標の使用をする商品又は役務の分野」の対象には、当該商標の指定商品・役務だけでなく、これと関連する商品・役務も勘案する。関連する商品・役務の具体的な例として、43類「中華料理店における飲食物の提供」と29類「チャーハンのもと」が考えられる(商標審査基準ワーキンググループ資料より)。

また、商標審査基準の七、2.(2)にある「需要者の間に広く認識されている」という文言は、商標法4条1項10号・19号にも出てくるが、8号における周知性は、10号・19号ほどレベルの高いものを求めているのではなく、ある程度緩やかに判断されるものと解される。即ち、8号における周知性とは、全国的に知られている者や全ての需要者層に知られている者である必要まではなく、相当程度の需要者が当該他人を想起・連想し得るかどうかで判断される。

7.政令で定める要件について
 改正商標法4条1項8号にある「政令で定める要件」については、改正商標法施行令1条にも定義されたとおり、「他人の氏名と出願人との相当の関連性」と「出願人に不正の目的がない」ことを必要とし、その詳細は、商標審査基準(改訂第16版)で以下のように規定されている。その趣旨は、出願商標に含まれる氏名とは無関係な者による濫用的な出願(例:悪意の出願)を拒絶できるようにするためである。

なお、商標審査基準の七、8.(2)の「不正の目的」とは、他人の人格的利益の侵害のおそれの有無によって判断されるべきと考えられている。

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