続報:平成27年特許法改正における「職務発明制度の見直し」 ~「特許を受ける権利の原始使用者等帰属」と「相当の利益に関する指針(ガイドライン)」~ (※経済産業省告示に関する追記あり)
(※指針(ガイドライン)に関する続報はこちら)
(※末尾に列挙した【関連資料】のうち、平成27年改正後の対応状況等に関する調査研究報告書を紹介した記事はこちら[その1,その2,その3])
2015年7月10日に公布され、2016年4月1日に施行されることとなった平成27年改正特許法では、既報のとおり職務発明制度の見直しが盛り込まれているが、実務面で特に注目されるのは下記の改正点1.~3.である。
- 職務発明についての特許を受ける権利は、発生したとき(発明が生まれたとき)から使用者等に帰属させること(原始使用者等帰属、使用者原始帰属)を可能とする(ただし、職務発明規程等において帰属の意思表示が必要)
→ 新35条3項 - 従業者等は、相当の金銭その他の経済上の利益(いわゆる「相当の利益」)を受ける権利を有する
→ 新35条4項 - 経済産業大臣は、「相当の利益」の内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況等について指針(ガイドライン)を定める
→ 新35条6項
※指針(ガイドライン)の経済産業省告示については、末尾の「追記・加筆(2016年4月22日)」参照
そこで、本稿では、特許庁からの公表資料を参照しつつ、現時点(2015年11月)で想定される留意点及び注目点を考察する。
■改正点①について
・ 「新たな選択肢」としての原始使用者等帰属
まず新35条3項について最も留意すべきは、職務発明は自動的には原始使用者等帰属とされないという点である。
(各図の※は、職務発明規定等に基づいて定まる)
すなわち、改正後の状況は、現行法と同様の予約承継(図1)という選択肢に加えて、原始使用者等帰属(図2)という新たな選択肢が設けられた言い換えることもできよう。
・ 原始使用者等帰属にするための職務発明規程とは?
実務的には、現行法の適用を前提としている予約承継に関する条項が含まれている既存の職務発明規程を改正後も使い続けた場合に生じうる問題については十分に検討する必要がある。現在の規程における文言の曖昧さが原因で、改正後には、予約承継に関する条項が原始使用者等帰属の意思表示と解釈されうる事態も考えられるためである。
出典1では、新35条3項が適用される規程例と適用されない規程例として下記のものが示されている。実際の規程を検討する際には個別の事情に応じた文言を検討すべきであるが、1つの参考になるといえよう。
新35条3項(原始使用者等帰属)が適用される規程例
職務発明については、その発明が完成した時に、会社が発明者から特許を受ける権利を取得する。(ただし、会社がその権利を取得する必要がないと認めたときは、この限りでない。)
新35条3項が適用されない規程例
1 発明者は、職務発明を行ったときは、会社に速やかに届け出るものとする。
2 会社が前項の職務発明に係る権利を取得する旨を発明者に通知した時に、会社は当該職務発明に係る権利を取得する。
※各規程例における下線(会社が権利を取得する時期)は筆者が追加
■改正点②及び③について
2015年9月16日に開催された産業構造審議会知的財産分科会の第12回特許制度小委員会では、新35条6項に基づく指針(ガイドライン)の素案が公表された。出典2によれば、同指針は「使用者等及び従業者等が行うべき手続の種類と程度を明確にし、特許法第35項第5項の不合理性判断に係る法的予見可能性を高めることにより、発明を奨励することを目的とする。」とされている。さらに、指針では「基準案の協議」、「基準の開示」、「意見の聴取(異議申立手続含む)」の3点について、手続の適正な在り方を明示するとしている。また、素案では改正点②に関連する「金銭以外の相当の利益を付与する場合」などが検討事項とされた。
つづいて10月23日に開催された第13回特許制度小委員会(出典3参照)では、指針案とあわせて「大学における職務発明に関する実態」および「中小企業のための職務発明規程導入のすすめ」も議論されており、「中小企業向け職務発明規程ひな形案」、「新しい職務発明制度普及HP」などの資料も配付された模様である。
なお、指針案は11月をめどにとりまとめられ、パブリックコメント募集が実施される予定となっている。(パブリックコメントの募集については、追記参照)
【出典1】特許庁「平成27年度特許法等改正説明会スライド」
【出典2】特許庁「産業構造審議会知的財産分科会 第12回特許制度小委員会 資料2及び3」
【出典3】特許庁「産業構造審議会知的財産分科会 第13回特許制度小委員会 配付資料」
***追記(2015年11月13日、30日)***
「改正特許法第35条第6項の指針案」が特許庁ウェブサイトで公表され、パブリックコメントの募集が開始された。募集期間は2015年11月13日~12月12日の1か月間となっている。
【出典4】特許庁「改正特許法第35条第6項の指針案に対する意見募集」
***追記(2016年1月8日、3月10日)***
2016年1月8日付けで特許庁ウェブサイトにおいて職務発明制度に関する一連のページが更新された。
指針案については、「パブリックコメントを受けてとりまとめた特許法第35条第6項の指針案」が公表された。あわせて、2016年1月下旬~2月下旬の予定で「平成27年改正特許法 職務発明ガイドライン案説明会」の開催も発表されている。
同日付で更新されたページは次の通り。
なお、「特許法第35条第6項の指針(ガイドライン)案」のページによれば、「この指針(ガイドライン)案については、平成27年度改正法が施行(平成28年4月1日を予定)された後、経済産業省告示として公表する予定」となっている。
さらに、2016年3月10日付けで「平成27年改正特許法 職務発明ガイドライン案 説明ビデオ」も公表された。
***追記・加筆(2016年1月19日、28日)***
「特許法等の一部を改正する法律(平成27年法律第55号)の施行期日を定める政令」により、本法律は平成28年(2016年)4月1日施行と定められた。
※本文の冒頭にて施行日を加筆
【出典5】経済産業省「平成27年改正特許法等の施行のための政令が閣議決定されました」
***追記・加筆(2016年4月22日)*** ※告示にあわせて、タイトルを変更
特許法第35条第6項の指針(ガイドライン)が、平成28年(2016年)4月22日に経済産業省告示として公表された。
特許庁ウェブサイトでは、最終的な指針(ガイドライン)のほか、「指針(ガイドライン)の概要」、「指針(ガイドライン)に関するQ&A」等も公表されている。
【出典6】特許庁「特許法第35条第6項の指針(ガイドライン)」
【関連資料】
いずれも特許庁 ※(4)及び(5)を除き特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書より
(1)平成28年度産業財産権制度問題調査研究:企業等における新たな職務発明制度への対応状況に関する調査研究[平成29年3月]※要約版あり
(2)平成27年度産業財産権制度問題調査研究:企業等における職務発明規程の策定手続等に関する調査研究[平成27年12月]※「<参考>職務発明規程の運用事例」あり
(3)平成25年度産業財産権制度問題調査研究:企業等における特許法第35条の制度運用に係る課題及びその解決方法に関する調査研究報告書[平成26年2月]
(4)我が国、諸外国における職務発明に関する調査研究報告書について[平成25年3月]
(5)動画チャンネル「職務発明制度の概要」[平成29年10月]
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