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[特許/米国]米国特許法101条を巡る状況(2018年1月~9月) ~米国特許商標庁は特許適格性に関するメモランダム3件を公表、長官は今後のガイダンス改訂について言及~

(※続報は【関連記事】のリンク先参照)

2018年に入ってから、米国特許法101条の特許適格性(保護適格性;日本特許法の特許・実用新案審査基準における発明該当性に相当)を巡る状況に関して注目できる動きが続いている。

米国特許商標庁(USPTO)が随時更新している出典(1)の裁判例リスト(XLSX)によれば、2018年1月~7月の期間において、連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、4件について特許適格性ありの判決を下し、2件について結論を示さずに連邦地裁へ差し戻す判決を下した。これを受けて、USPTOは、下記3つの審査官向けメモランダムを公表した。

  1. Recent Subject Matter Eligibility Decisions: Finjan and Core Wireless(2018年4月2日公表)(PDF)
  2. Revising 101 Eligibility Procedure in view of Berkheimer v. HP, Inc.(2018年4月19日公表)(PDF)
  3. Recent Subject Matter Eligibility Decision: Vanda Pharmaceuticals Inc. v. West-Ward Pharmaceuticals(2018年6月7日公表)(PDF)

1.では、コンピューター技術の改良に焦点をあてたソフトウエア関連発明のクレームが抽象的アイデア(abstract idea)を対象としていないとの判断が示されたCAFC判決を取り上げるなど、2018年1月改訂の特許審査便覧(MPEP)に反映されていない裁判例を周知とすることに主眼を置いている。

また、2.は「Berkheimerメモランダム」とも呼ばれており、特許適格性の判断手順でステップ2Bにおける観点である「追加の要素(又は追加の要素の組み合わせ)が、よく知られ、ルーチンで、慣習的な活動か否か」の判断について、関連するMPEPである§2106.07(a)及び§2106.07(b)を改訂する位置付けで公表された。

その内容は、拒絶理由の根拠を明確にすることを審査官に求めるものであり、このBerkheimerメモランダムの公表後に101条の特許適格性に関する拒絶理由の割合が低下したとのデータがUSPTOから示されている点は興味深い(図1参照)。もうしばらく経過を見る必要はあるが、今後は、審査官の判断がBerkheimerメモランダムでの要請に従っているか否かは、オフィスアクションへの応答を検討する際に有用な着眼点になると考えられる。

<図1:101条(特許適格性)に関する拒絶理由の推移>
101条(特許適格性)に関する拒絶理由の推移(別期間における技術分野別の推移は、【参考】に示したPatently-Oの記事を参照)

さらに、3.では、Mayo最高裁判決以降では治療方法の発明について特許適格性を初めて認めたCAFC判決であるVanda Pharmaceuticals Inc. v. West-Ward Pharmaceuticals (Fed. Cir. 2018)が取り上げられている。同CAFC判決では、Mayo最高裁判決の代表クレーム(US 6,355,623のクレーム1)は「診断方法(diagnostic method)」であると評価した上で、対象特許の代表クレーム(US 8,586,610のクレーム1)は「治療方法(method of treatment)」であると両者を区別したことがキーポイントとなっており、3.においてもその点への言及が認められる。

出典(2)(PDF)では、最近の米国特許法101条の拒絶理由に関する出願人の認識が示されているが(表1参照)、他の拒絶理由として挙げられている新規性(102条)非自明性(103条[進歩性])及び記載要件(112条(a)項[記述要件(サポート要件)、実施可能要件及びベストモード要件]112条(b)項[明確性要件])に関する評価と比べて、特許適格性(101条)の各評価項目では「まれに(Rarely)」の割合が20~30ポイント程度高く、厳しい評価となっている。今後、2018年1月の改訂後のMPEPのほか、本稿で取り上げたメモランダムに沿った判断が浸透していくことで、出願人の間での認識が好転することが期待される。

<表1:米国特許法(35 USC)の拒絶理由に関する出願人の認識>

101条 102条 103条 112条(a) 112条(b)
正確さ(Correctness)
大抵(Most of the time) 26% 66% 41% 62% 70%
時には(Some of the time) 48% 31% 52% 31% 26%
まれに(Rarely) 26% 3% 7% 7% 4%
明確さ(Clarity)
大抵(Most of the time) 34% 78% 56% 74% 78%
時には(Some of the time) 43% 21% 38% 22% 20%
まれに(Rarely) 23% 1% 6% 4% 2%
一貫性(Consistency)
大抵(Most of the time) 26% 74% 52% 65% 70%
時には(Some of the time) 41% 23% 40% 29% 26%
まれに(Rarely) 33% 3% 8% 6% 4%
※出典(2)に基づいて作成

なお、シカゴで行われたIntellectual Property Owners Association (IPO)の第46回年次会議(annual meeting)において、2018年9月24日にUSPTOのIancu長官は、特許適格性のガイダンスが改訂作業中であるとした上で、上記2.のBerkheimerメモランダムのほか、改訂の方向性について下記のような具体的な言及もあることから今後の公表が待たれる。

追記:その後2019年1月4日に公表された新たなガイダンスについては下記の【参考】を参照

・Aliceテストのステップ1及び2(MPEPのフローチャートにおけるステップ2A及び2B)について

And so, if the claim integrates the exception into a practical application, then the claim is not “directed to” the prohibited matter. In such cases, the claim passes 101 and the eligibility analysis would conclude. Otherwise, we would move to step 2 of Alice, for example as explained in the office’s Berkheimer memo from earlier this year.

It is important to note that the first step of our analysis does not include questions about “conventionality,” which are addressed in Alice Step 2. That is, it does not matter if the “integration” steps are arguably “conventional”; as long as the integration is into a practical application, then the 101 analysis is concluded. This helps to ensure that there is a meaningful dividing line between 101 and 102/103 analysis. A fully “conventional” yet patent-eligible claim may still be unpatentable as obvious. But it is better to address such a claim with obviousness law that has been developed over 65 years of practice.

※下線は筆者が付加

・Aliceテストのステップ1(MPEPのフローチャートにおけるステップ2A)について

In sum, the proposed guidance for Section 101, which addresses step 1 of Alice, would explain that eligibility rejections are to be applied only to claims that recite subject matter within the defined categories of judicial exceptions. And even then, a rejection would only be applied if the claim does not integrate the recited exception into a practical application. This provides significantly more clarity for the great bulk of cases.

※下線は筆者が付加

 

【出典】
いずれも米国特許商標庁
(1)「Subject matter eligibility
(2)「Patent Public Advisory Committee Quarterly Meeting (August 2, 2018): Quality Update: Customer Perception Survey(PDF)」
(3)「Remarks by Director Iancu at the Intellectual Property Owners Association 46th Annual Meeting

【参考】
ジェトロ・知財ニュース米国発 特許ニュース 2018年10月5日 Iancu長官のIPO年次総会基調演説(PDF)」
Dennis Crouch (Patently-O)「The Impact of 101 on Patent Prosecution (October 21, 2018)」※2010年1月~2017年1月までを対象として、本文の図1と同様の分析が、Technology Center及び医療診断関係(MedDx)の技術分野別についても示されている。

米国特許商標庁「U.S. Patent and Trademark Office announces revised guidance for determining subject matter eligibility
※2019年1月4日に公表された新たなガイダンスに関するプレスリリース(官報(Federal Register)はこちら)。Alice/Mayoテストのステップ1に関しては下記が主な変更点とされており、下線を付加した「抽象的アイデアについての3つのグループ分け(groupings of subject matter)」及び「実用的な応用(practical application)」に関する判断がどのように運用され、審査の一貫性等に対する出願人の認識改善に資するかが注目される。新ガイダンスを取り上げた記事はこちら

The “2019 Revised Patent Subject Matter Eligibility Guidance” makes two primary changes to how patent examiners apply the first step of the U.S. Supreme Court’s Alice/Mayo test, which determines whether a claim is “directed to” a judicial exception.

  • First, in accordance with judicial precedent and in an effort to improve certainty and reliability, the revised guidance extracts and synthesizes key concepts identified by the courts as abstract ideas to explain that the abstract idea exception includes certain groupings of subject matter: mathematical concepts, certain methods of organizing human activity, and mental processes.
  • Second, the revised guidance includes a two-prong inquiry for whether a claim is “directed to” a judicial exception. In the first prong, examiners will evaluate whether the claim recites a judicial exception and if so, proceed to the second prong. In the second prong, examiners evaluate whether the claim recites additional elements that integrate the identified judicial exception into a practical application. If a claim both recites a judicial exception and fails to integrate that exception into a practical application, then the claim is “directed to” a judicial exception. In such a case, further analysis pursuant to the second step of the Alice/Mayo test is required.

 

【関連記事】
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***更新情報(2018年10月10日)***
【参考】にIPO第46回年次会議でのIancu長官の基調演説に関する日本語記事へのリンクを追加

***更新情報(2018年10月19日)***
IPO第46回年次会議でのIancu長官の基調演説からの引用における下線の付与を変更

***更新情報(2018年12月4日)***
【参考】にPatently-Oの記事へのリンクを追加

***更新情報(2019年1月7日、9日、11日、2月18日、21日、3月7日)***
記事冒頭と【参考】に2019年1月4日に公表された新たなガイダンスに関するプレスリリースへのリンク等を追加
【参考】での図のフローチャートを参考訳に差し替え、誤訳を訂正

***更新情報(2019年4月5日)***
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