知的財産高等裁判所の設立の意義
今年、平成17年4月1日より知的財産高等裁判所設置法に基づき、知的財産高等裁判所が、特別の支部として東京高等裁判所に設置された。 |
知的財産高等裁判所は、知的財産に関する事件についての裁判の一層の充実及び迅速化を図るため、これを専門的に取り扱う裁判所として設置され、裁判所の専門的処理態勢を一層充実させ、整備することを目的としている。知的財産高等裁判所は、全国すべての特許権に関する控訴事件や特許庁の審決に対する訴訟事件を始め、その性質・内容が知的財産に関するものである限り、東京高等裁判所が取り扱うものとされているすべての事件を取り扱う。つまり、知的財産高等裁判所は、我が国における知的財産に関する事件を幅広く包括的に取り扱う専門の裁判所であるといえる。そして、知的財産高等裁判所は、その専門性を十分に発揮するために、専門的事件処理のかなめともいうべき裁判事務の分配等の一定の司法行政事務について、独自の権限が認められている。知的財産高等裁判所が設置されるに至った背景には、「知的財産立国」という言葉に象徴されるように、知的財産の創造、保護及び活用を図る様々な施策が国の重要な政策として位置付けられているということがある。
知的財産高等裁判所の設立に対しては、一部に慎重論もある。すなわち、以下に挙げるようなものである。
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侵害まで扱うような特別裁判所については、世界でも類を見ない新しい制度である。にもかかわらず、学会や法曹界での議論が煮詰まっていない状況での設立は、いささか性急に過ぎる。
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裁判所、裁判官に必要なのは法律家としての論理的な能力であり、特許訴訟だからといって必ずしも高度な技術の知識や専門性が必要とはいえない。
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技術の知識や知的財産についての専門性はあるに越したことはないが、知識がなければ他人から借りれば足りる。むしろ、必要なのは当事者や弁護士の説明能力やプレゼン能力である。
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仮に知的財産高等裁判所や技術系裁判官を導入したとしても全ての技術分野に精通するのは不可能だし、逆に技術分野ごとに裁判官を用意するというのも現実的でない。
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むしろ裁判官がなまじ知的財産や技術に詳しいと当事者の説明をきちんと聞かずに自分の知識で判断してしまう危険もあり得る。
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知的財産高等裁判所として専門化すると、裁判官等の人員の固定化により逆に組織の硬直化を促し、多種多様な事件への柔軟な対応を阻害する。
私論としては、知的財産重視の政策の一環としての知的財産高等裁判所の設立は意義があると思うが、上記慎重論もまた一理あると思う。まだ、知的財産高等裁判所が設立されてから、あまりに日が浅い。今後の状況を見守りたいところである。
以上