[特許/米国]継続出願の戦略について一石を投じる地裁判決:Sonos v. Google
米国の特許制度において継続出願(continuation application)は自己及び他者製品など市場動向を考慮した知財戦略としてしばしば利用されています。そして一連のいずれかの出願が係属している限り継続出願の回数やタイミングに制限がないことから、最初の出願から長期間にわたって継続出願がなされることもあります。しかしながら、このような継続出願の戦略について一石を投じる地裁判決が2023年10月6日になされました(Sonos Inc. v. Google LLC、20-06754 WHA、2023 WL 6542320 (N.D. Cal))。
原告Sonosは被告Googleの製品がスマートスピーカーに関する継続出願からの2件の特許を侵害しているとしてカリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に特許侵害訴訟を提起し、同地裁の陪審は2023年5月にGoogleの侵害と3250万ドル(約45億円)の賠償を認める評決をしました。
しかし、Googleからの申し立てを受けた同地裁のAlsup判事は、Sonosが2006年9月にスマートスピーカーの技術に関して最初の出願(仮出願)を行い、それから13年が経過した2019年8月になって初めて継続出願の審査過程で、2015年12月に上市されたGoogle製品を知得した上でこれを含むようにクレームを補正して特許を取得したことが審査懈怠の法理(doctrine of prosecution laches)に反し不公正であるとして、先の評決を却下し権利行使することができないと判示しました。合わせて、Alsup判事は上記継続出願での補正が新規事項の追加に該当し、その結果当該継続出願の有効出願日は補正がなされた2019年8月になるから2015年12月のGoogle製品上市により新規性を有さず無効であるとも判示しています。
審査懈怠の法理は、かつて米国における特許期間が「特許付与から17年」であった時代に、最初の出願から長期間が経過して突然出現するいわゆる「サブマリン特許」の濫用を防ぐために適用されてきました。しかし、1995年に特許期間が「出願日から20年」に変更されて「サブマリン特許」の懸念がなくなってからはこの法理はほとんど問題になっていませんでしたが、今回の判決でAlsup判事は1995年以降の出願についても審査懈怠の法理は適用可能であると述べています。
なお、継続出願のあり方に関しては、かつて2007年にUSPTOは継続出願の回数を1ファミリーあたり2回に制限するという改正規則案を公表しましたが、当該規則案を無効とする訴訟が提起されてUSPTOが敗訴して撤回されたという経緯があります。
その一方で、継続出願の費用に関して、優先日から3年以上経過して継続出願をする場合には1500ドル、優先日から7年以上経過して継続出願する場合には3000ドルの追加手数料が新たに課せられるという料金改定案がUSPTOから公表されており、こちらは2025年1月から施行予定となっています。
本地裁判決についてはSonosにより控訴されています。連邦巡回控訴裁判所(CAFC)が審査懈怠の法理についてどのような判断を示し、また継続出願のあり方について何らかの指針を示すのかが注目されますが、仮にCAFCが本地裁判決を維持した場合は、上記した追加手数料も含めて、これまでの継続出願の戦略を見直す必要が出てくるかもしれません。