[特許/欧州]審査ガイドラインの改訂 ~拡大審判部による審決に基づく内容~
欧州特許庁の審査ガイドライン(出典1参照)が改訂され、2024年3月1日から適用されている。出典2には、改訂内容の一覧が示されており、主な改訂は表1の内容であるとされている。
表1:主な改訂
総則(General Part) |
欧州単一特許の保護についての追記 |
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方式審査(PART A) |
文書の電子提出に関する決定を考慮したOJ EPO 2023, Article 48※1に基づく更新 |
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ジョージアを有効国として含めるように更新 |
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審判請求手数料の払戻しに関する新たなサブセクション |
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実体審査手続(PART C) |
単一特許の請求に関する新たなサブセクション |
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異議申立等(PART D) |
Rules 126(2)及びRules 131(2)に関する法的変更を反映するための更新(OJ EPO 2022, Article 101) |
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一般手続事項(PART E) |
Rule 126(2)に関する法的変更を反映するための更新(OJ EPO 2023, Article 29) |
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G 2/21を考慮した審査部・異議部等の担当部門の証拠の評価に関する権原と義務の追記 |
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欧州特許の存続期間満了後の手続に関する新たな規定 |
※1:OJ:Official Journal
上記表の通り、拡大審判部による審決に基づく改訂が含まれている。当該審決に基づく改訂の要点は以下の通りである。
1.優先権(A‑III, 6.1)
G 1/22及びG 2/22に基づき優先権のセクション(A III, 6.1)に以下の点が明記された。
- 欧州特許条約第88条(1)及び規則52に従って優先権を主張する出願人又は共同出願人には、主張された優先権を享受する権利を有するという強い反証可能な推定が存在する。
- 優先権に欠陥があると審査部又は異議申立人等が主張するのであれば、立証責任が逆転し、当該主張を行う者自身が、優先権は享受できないことを立証する必要がある。
優先権の主張を伴う特許出願をする出願人や欧州特許権者にとってはユーザーフレンドリーに解釈されることが明らかになったといえる。
2.証拠の評価及び進歩性(E‑IV, 4.1、G‑VII, 5.2、G‑VII, 11)
G 2/21に基づき以下の点が証拠の評価のセクション(E IV, 4.1)に明記された。
- 審査部・異議部等の担当部門は、申立てられた事実が証拠に基づいて十分に立証されているかどうかを評価する権原と義務を有する。この原則は、権限のある部門が、当事者の意見の全内容を考慮し、自らの裁量と信念に従い決定することを可能にし、要求する(いわゆる自由心証主義)。
なお、上記の表1には挙げられていないが、G 2/21に基づきPART G(特許性)の進歩性の章に以下の点が追記されている。
- G-VII-5.2(課題解決アプローチ)
進歩性を裏付ける新たな効果を考慮に入れることができるのは、当業者が技術常識を念頭においた上で、出願当初の出願に基づいて、技術的教示に包含され、かつ当初開示された同一の発明により具現化されるものとして、当該効果を導き出す場合に限られる。
- G-VII-11(出願人が提出した主張及び証拠)
進歩性の評価において考慮することができると考えられる、技術的効果を証明のために提出された証拠は、自由心証主義の原則に従って評価される。そのような証拠は、それが公表された後であるという理由だけでは無視されない。
上記改訂については、既報(出典3)で述べた通り、実際にどのように運用されるのかに関しては、具体的事案を通して経過を見守る必要がある。
[出典]
1.欧州特許庁「Guidelines for Examination in the European Patent Office March 2024」(PDF)
2.欧州特許庁「List of sections amended in 2024 revision」
3.弊所対外サイト「[特許/欧州]出願後に提出された実験データ等の証拠の取り扱いに関するEPO拡大審判部の審決」
[参考]
欧州特許庁「Press Communiqué of 10 October 2023 concerning decision G 1/22 and G 2/22 of the Enlarged Board of Appeal」
ジェトロ「欧州特許庁(EPO)審判部、優先権の有効性評価に関する拡大審判部審決を公表」(PDF)
欧州特許庁「Press Communiqué of 23 March 2023 on decision G 2/21 of the Enlarged Board of Appeal」
ジェトロ「欧州特許庁(EPO)審判部、出願日後に提出された証拠に関する拡大審判部審決を公表」(PDF)
弊所対外サイト「[特許/欧州]「公衆に利用可能」に関する解釈について拡大審判部に質問を付託 G 1/23事件」(上記G 1/22及びG 2/22の事件に言及)