[特許/欧州]「公衆に利用可能」に関する解釈について拡大審判部に質問を付託 G 1/23事件
2023年6月27日、G 1/23の事件に関してEPC第54条第2項における「公衆に利用可能」の解釈について、EPO技術審判合議体が拡大審判部に質問を付託した。
1.従来の「公衆に利用可能」に関する判例法
「公衆に利用可能」に関して、審決G 1/92(1992年)では以下の事項が示され、確立された判例法となっている。
2.拡大審判部に質問が付託された「公衆に利用可能」に関する解釈
G 1/23の事件に係属中に、中間審決T 438/19(Reasons for the Decisionの項目11)で指摘された点を以下に示す。
●審判部の判例法(Case Law of the Boards of Appeal)の中で、審決G 1/92の解釈の適用に関して、異なるアプローチが採用されている。
●現在の審判では、以下の3点に関して異なる決定がなされている
(ⅰ)製品自体(化学的な組成・内部構造を含む)またはその科学的な組成・内部構造のみを、技術水準から除外することにつながる「公衆に利用可能」の解釈
(ⅱ)当該製品の分析の程度
(ⅲ)当該製品の再現性に関する要件
このような相違は、EPC第54条第2項「欧州特許出願の出願日前に,書面若しくは口頭,使用又はその他のあらゆる方法によって公衆に利用可能になったすべてのものは技術水準を構成する。」における「技術水準」を構成するものを評価する際の法的不確実性につながる。したがって、拡大審判部に以下の質問が付託された。
(1)欧州特許出願日前に上市された(市販された)製品は、当該特許出願日前に、当業者が当該製品の組成または内部構造を、過度の負担なく分析・再現することができなかったという理由のみで、EPC第54条第2項の意味における技術水準から除外されるか。
(2)(1)の質問に対する答えがNOである場合、当業者がその製品の組成または内部構造を、過度の負担なく分析・再現することができたかどうかに関わらず、欧州特許出願日前に公衆に利用可能になっていた当該製品に関する技術情報(技術パンフレット発行、非特許・特許文献)は、EPC第54条第2項の意味における技術水準となるか。
(3)(1)の質問に対する答えがYESである場合、または(2)の質問に対する答えがNOである場合、当該製品の組成または内部構造を、過度の負担なく分析・再現することができたかどうかを審決G 1/92の意味において判断するためには、どの基準が適用されるべきか。特に、当該製品の組成または内部構造を完全に分析することができ、同じように再現できることが要求されるのか。
この質問に対する拡大審判部の判断が待たれる。
3.欧州特許庁の対応
(1)上記G 1/23事件で技術水準に関する質問が拡大審判部に付託されたことによる影響を考慮し、当該付託が影響を及ぼし得る全ての審査及び異議の手続を保留することを、欧州特許庁の長官は決定した。
(2)上記G 1/23事件で技術水準に関する質問が拡大審判部に付託に対し、第三者からの意見の提出を2023年11月30日まで受け付ける旨、審判部から通知があった。
4.拡大審判部に質問が付託されているその他の事件
今回紹介した事件以外にも、G1/22及びG2/22に関して、基礎出願とPCTとで異なる出願人名義である場合の優先権適格性についての質問が拡大審判部に付託されている。
[出典]
1.欧州特許庁(European Patent Office(EPO))「Referral to the Enlarged Board of Appeal – G 1/23 (“solar cell”)」
2.欧州特許庁「G 0001/92 (Availability to the public) 18-12-1992」
3.日本特許庁「欧州特許庁欧州特許付与に関する条約」(PDF)
4.欧州特許庁「Notice from the European Patent Office dated 13 July 2023 concerning the staying of proceedings due to referral G 1/23」
5.欧州特許庁「Communication from the Enlarged Board of Appeal concerning case G 1/23」
6.欧州特許庁「Referrals pending before the Enlarged Board of Appeal」