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[特許/欧州] 欧州単一特許制度の基礎知識(2)

既報では、下記のセクションのうち1と2を解説しました。今回は3-5を解説いたします。

1.欧州単一特許制度の概要
2.単一特許の概要
3.統一特許裁判所の概要
4.欧州単一特許制度の開始時期
5.サンライズ期間までの検討事項
6.オプト・アウトの検討に関するまとめ
7.審査が最終段階に達した欧州特許出願に対する経過措置

3.統一特許裁判所の概要
(1)統一特許裁判所(UPC)の構成は?
第一審裁判所及び控訴裁判所からなる二審制です。

イギリスがEUを離脱し制度に不参加となったことで、イタリアのミラノが中央部の支部の誘致に名乗りを挙げていましたが、2024年6月27日にミラノ支部が正式に稼働を開始しました。したがって、ロンドンに設置される中央部の支部で取り扱う予定であったバイオ、製薬、化学の案件のうち、製薬を含む生活必需品(IPCセクションA)をミラノ支部が取り扱うことになりました。化学、バイオはミュンヘン支部で、SPCはパリ支部で分担して取り扱われます。

(2)統一特許裁判所(UPC)の管轄は?
 単一特許だけでなく、従来型欧州特許に関する訴訟(侵害訴訟および無効訴訟など)についても管轄します。これは、既に成立している欧州特許にも適用されます。

 ただし、移行期間中(7年の予定で最長14年)、特許権者は従来型欧州特許の訴訟管轄をUPCと各国裁判所の並行管轄ではなく、各国裁判所のみとするための適用除外(オプト・アウト)の申請が可能です(83条 UPCA)。なお、単一特許はオプト・アウトの申請ができません。

(3)中央部、地方部、地域部の管轄は?
 訴訟の種類に応じて、下記の管轄となります。

侵害の発生地や被告の居住地に地方部や地域部が無い場合は、中央部が管轄します。(32,33条 UPCA)

 (4)統一特許裁判所(UPC)の利点は?
・一元的に権利行使(仮差止も含めて)可能
・各国裁判所での手続きを回避可能
・審理速度が速い(12か月が目標)
・対象特許が英語なら手続きは英語を使用(中央部)
・間接侵害や国境を跨ぐ侵害行為などに有利な可能性あり

4.欧州単一特許制度の開始時期

2023年3月時点で、ドイツ、フランス、イタリアを含む17か国が批准済みで、発効に必要な国数はクリアしました。

 下記は、最新の統一特許裁判所からの発表に沿った欧州単一特許制度の本格運用開始のスケジュールです。ドイツが2023年2月17日批准書を寄託したことで、4か月目の最初の日である2023年6月1日から本格運用が開始されます。

UPCの本格運用開始前の3か月間が「サンライズ期間」となります。サンライズ期間では、従来型欧州特許の訴訟管轄からUPCを外し各国裁判所のみとするための適用除外(オプト・アウト)の申請が可能となります。

5.サンライズ期間までの検討事項
(1)登録済み+発効前に登録予定の欧州特許
  UPCは従来型欧州特許に関する訴訟についても管轄します。移行期間中(7年の予定で最長14年)、従来型欧州特許の訴訟管轄をUPCと各国裁判所の並行管轄とするか、あるいは各国裁判所のみとするか、方針を決めておくのが好ましいです。各国裁判所のみとする場合は、UPCの適用除外(オプト・アウト)の申請が必要です。

(2)現在係属中+将来の欧州特許出願
 今後、単一特許を利用するのかしないのか、利用するのであればどのような場合に利用するのか、方針を決めておくのが好ましいです。権利化が必要な国数が増えれば(5か国以上)、維持年金の面では従来型欧州特許よりも単一特許が有利です。

現在係属中の出願について単一特許を希望する場合は、必要に応じて特許庁への係属を引き延ばす手段を検討する必要があります。

(3)今後の出願ルート
 移行期間(7年の予定で最長14年)が終われば、従来型欧州特許の訴訟管轄はUPCのみになるため、将来を見越して欧州での権利化においてEPルートを使わずに各国ルートを選択する必要があるか、必要がある場合はどのような場合に選択するかといった方針を決めておくのが好ましいです。

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