[特許/オーストラリア]2024年10月1日からの庁費用の改訂 ~超過クレーム庁費用に注意~
2024年9月2日、オーストラリア知的財産庁は2024年10月1日からの庁費用の改訂を公表した。当該改訂は、特許出願手続や異議申立手続の庁費用の値上げを含むが、注意すべきと考えられる改訂内容は、クレーム数が20を超える場合には課せられる庁費用(以下、超過クレーム庁費用)に関するものである。以下に超過クレーム庁費用に関する改訂内容を紹介する。
1.現行における超過クレーム庁費用
現行の料金体系では、特許許可までの出願手続中には超過クレーム庁費用は発生せず、特許許可時にクレームが20を超える場合に超過クレーム庁費用が発生する。そのため、上記出願手続き中に多くのクレームを提示することにデメリットはないといえる。また、出願人は、特許許可時までに審査官により許可可能と判断されたクレームに基づいて、クレーム数を20に削減する選択肢がある。
この現行の料金体系は、2024年10月1日より前に審査請求される出願にも引き続き適用されることに留意されたい。
2.改訂後における超過クレーム庁費用
(1)超過クレーム庁費用の発生
改訂後の料金体系では、2024年10月1日以降に審査請求される出願に関しては、審査官によって検討されたクレームの総数(最大クレーム数)に対して超過クレーム庁費用が発生する点に留意する必要がある。超過クレーム庁費用の納付指示が出されるのは、
〇最初の審査報告(First Examination Report)の発行時
〇特許許可時
のタイミングであり、以下にそれぞれのタイミングについて説明する。
①最初の審査報告の発行時
最初の審査報告の発行時のクレーム数に応じて、超過クレーム庁費用が発生する。クレーム数が20を超える場合には、最初の審査報告の発行直後に、超過クレーム庁費用に関する納付指示が出され、1月以内に納付する必要がある。1月以内に納付しない場合には出願は失効となるのと、審査官は最初の審査報告に対する応答に対応しない点に留意する必要がある。
なお、上記のように出願が失効した場合、出願人は超過クレーム庁費用をアクセプタンス期限※1の最終日前(最初の審査報告の発行から12月以内または特許法第223条により延長された日)までに納付した場合にのみ出願を復活させることができる。12月以内に納付する場合、納付の遅延や延長に関する庁費用は適用されない。また、現地代理人によれば、近日中にこのプロセスに関する詳細が公表されるとしている。
※1:オーストラリアでは、最初の審査報告から12月以内に最終処分が決定される必要があり(特許規則13.4(1)(b)))、この期限のことをアクセプタンス期限という。
②特許許可時
特許許可時は、審査官によって検討された最大クレーム数と最初の審査報告の発行時のクレーム数の差分であって、クレーム数が20を超えた部分についてについて超過クレーム庁費用が発生する。
③具体例
例1)最初の審査報告時のクレーム数が20であって、その後にクレーム数が100となるような補正をし、その後の特許許可前にクレーム数が20となるような補正をした場合、特許許可時に80クレーム(100クレーム‐20クレーム)分の超過クレーム庁費用が発生する。
例2)最初の審査報告時のクレーム数が100であって、その後にクレーム数が150となるような補正をし、そのまま許可時にクレーム数が150であった場合、最初の審査報告時に80クレーム(100クレーム‐20クレーム)分、さらに特許許可時に50クレーム(150クレーム‐100クレーム)分の超過クレーム庁費用が発生する。
より具体的なシチュエーションについては出典2に7つのシナリオが紹介されているので、参照されたい。
(2)超過クレーム庁費用の額
超過クレーム庁費用の額は、現行と変わらず以下の通りである。
21~29クレーム(1クレームごと): 125オーストラリアドル
30クレーム以上(1クレームごと): 250オーストラリアドル
※2:オーストラリアドル=95.35円(9月9日のレート)
(3)審査手続きにおける通知
オーストラリア知的財産庁は、審査手続き開始の約6月前に審査手続きの開始が予定されている旨を出願人に通知するとしている。当該通知は、出願人に最初の審査報告が発行される前に、クレームの総数を削減等することにより、超過クレーム庁費用を削減・回避する機会を与えることを意図する通知である。なお、特許審査ハイウェイを含む早期審査化プログラムの制度を利用する場合には、オーストラリア知的財産庁は制度の申請から8週間以内に審査することを目指しているため、この審査手続き開始の約6月前の通知に関しては例外となるとしている。
3.考えられる対策
20を超えるクレームを有する出願がある場合、現行の料金体系が適用されるように、2024年10月1日より前に(2024年9月30日までに)審査請求することが望ましい。なぜなら、上述の例1のような場合、審査官が検討したクレーム数が100であったとしても、審査官により許可可能と判断されたクレームに基づいて特許許可時までにクレーム数を20まで削減すれば、現行の料金体系においては、超過クレーム庁費用は発生しないためである。
また、20を超えるクレーム数を有する出願であって、2024年10月1日以降に審査請求する場合には、超過クレーム庁費用の納付を考慮してクレーム数を削減するかどうかを、最初の審査報告の発行時までに検討することが賢明である。また、最初の審査報告の発行時のクレーム数が20を超えていなくても、その後の審査の過程でクレーム数が20を超えるような補正をすると、超過クレーム庁費用が発生する点に留意する必要がある。
[出典]
1.オーストラリア知的財産庁「Fee changes from 1 October 2024」
2.オーストラリア知的財産庁「Changes to Patents Excess Claims Information」(クリックによりPDFがダウンロードされる)
3.Australasian Legal Information Institute「PATENTS REGULATIONS 1991 – REG 13.4 Prescribed period: acceptance of request and specification」
4.日本特許庁「オーストラリア特許規則」(PDF)
5.Australasian Legal Information Institute「PATENTS ACT 1990 – SECT 223 Extensions of time」
6.日本特許庁「オーストラリア特許法」(PDF)