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[特許・意匠・商標等/ベトナム]知的財産法改正

2022年6月16日、ベトナム国会は改正知的財産法第07/2022/QH15号(以下、改正法)を成立させた。本稿では、この改正法のポイントを説明する。

なお、本稿において、2010年1月1日施行の知的財産法第36/2009/QH12号を従来法とする。また、引用した記載等は、改正法についてはJETRO、従来法については特許庁により提供されている和訳である。

1.改正法の施行期日
原則として、改正法は2023年1月1日に施行される。ただし、以下の例外がある。

  • 音商標の保護に関する規定:2022年1月14日に遡って施行
  • 農薬に使われる試験データの保護に関する規定:2024年1月14日から施行

2.改正法のポイント
(1)特許・工業意匠・商標等
①異議申立
従来法第112条では、権利付与(保護証書付与)に関して第三者の意見を提示することができるとのみ規定され、当該第三者の意見の取扱いについては、規定されていない(特許審査基準等の下位法で規定されていた)。

改正法では、第112a条が追加され、従来の意見提出手続きとは別の手続きとして異議申立が導入された。特許庁には異議申立に対応する責務がある、とされている。申立期間は以下に示す通りである。

a) 発明登録出願の公開日から9ヶ月以内。
b) 工業意匠登録出願の公開日から4ヶ月以内。
c) 標章登録出願の公開日から5ヶ月以内。
d) 地理的表示の登録出願の公開日から3ヶ月以内。

従来法第112条改正法第112条(第112a条含む)

②無効理由
従来法では、第96条第1項に完全に無効とされる無効理由として以下が規定されていた。

  • 登録出願人が(発明,工業意匠,回路配置及び標章に関して)登録を受ける権利を有さず又は当該権利を譲渡されてもいない場合
  • 工業所有権の主題が,保護証書の付与の日における保護条件を満たさなかった場合

また、同条第2項については「保護証書が部分的に保護条件を満たさなかったときは,その部分は無効となるものとする。」とのみ規定され、具体的な内容は規定されていなかった。

改正法では、従来法第96条第1項の内容が後述の通り、改正法第96条第2項に移行し、改正法第96条第1項では完全に無効とされる無効理由として以下が新たに規定されている。

  • 不正目的で標章の登録出願をした場合
  • 発明登録出願が、本法第89a条に定める発明に係る安全保障に関する管理措置に違反した場合
  • 遺伝資源又は遺伝資源に関連する伝統的知識から直接創作された発明について、登録出願の願書にその遺伝資源又は遺伝資源に関連する伝統的知識の由来を開示していない、又は正確に開示していない場合

また、改正法第96条第2項は、全部又は一部は無効とされる無効理由が規定されている。上述の従来法第96条第1項の内容は以下のaとbに対応している。

a) 登録出願人が、発明、工業意匠、回路配置及び標章に関して登録を受ける権利を有さず、又は当該権利を譲渡されてもいない場合
b) 工業所有権の主題が、本法第8条及び第7章に定める保護条件を満たさなかった場合
c) 工業所有権の登録出願の補正が、公開される権利の範囲若しくは出願の主題を広げる場合、又は出願の主題の性質を変更する場合
d) 発明の内容について、当該発明に関する技術分野の通常の知識を有する者が実施可能な程度に、十分かつ明確に開示されていない場合
dd) 発明が、当初の出願に添付した明細書で申し立てた保護の範囲を超えて保護される旨の保護証書を取得した場合
e) 発明が、本法第90条に定める先願主義を遵守していない場合

さらに、改正法同条第3項以降についても、補足等がなされている。

従来法第96条改正法第96条

(2)特許
①第一国出願義務
従来は、2011年2月20日に施行された政府決議122/2010/NĐ-CP(以下、政府決議122)に、ベトナムで発生した発明についてのベトナムでの第一国特許出願義務が規定されていた。しかしながら、政府決議122の規定は内容が明確であるとはいえず、外国へ特許出願する場合の時期的制限である6ヶ月についても長すぎると指摘されていた。

従来の政府決議122

a)ベトナムで特許出願を行い、ベトナムの出願日から6か月の期間を経過した場合にのみ、外国において産業財産権保護登録出願を行うことができる。ただし、以下bに規定する場合を除く;

b)国家秘密保護に関わる法律に基づき、権限を有する国家機関による通知を以て秘密特許の認定がされた場合には、外国において産業財産権保護登録出願を行うことができない。

改正法では以下に示す第89a条が追加されることにより、従来の第一国出願義務が、限定されるとともに、明確となっている。条文中の「国防及び安全保障に影響を与えるおそれがある技術分野に係る発明」、「安全保障に関する管理措置」に関する詳細は、別途規則等で定められるようである。

改正法

第89a条 外国で登録出願を提出する前の発明に係る安全保障に関する管理措置の実施

1.国防及び安全保障に影響を与えるおそれがある技術分野に係る発明であって、ベトナムで創作され、その登録をする権利がベトナム在住のベトナム人又はベトナム法に基づき設立された法人に属する場合、当該発明に対して安全保障に関する管理措置を実施するため、ベトナムで既に登録出願をしている場合に限り、外国で登録出願をすることができる。

2.政府は、本条1項の詳細を規定する。

従来のベトナムにおける第一国出願制度改正法第89a条

②拒絶理由
改正法第117条には第1a項が追加され、以下のようないわゆるサポート要件や実施可能要件といった拒絶理由等が条文上明記された。

a.出願に添付される最初の明細書に記載された事項の範囲を超えて保護の請求をした場合。
b.発明の内容について当該発明が当該技術の通常の知識を有する者により実施できる程度に明細書で開示していない場合。
c.遺伝資源又は遺伝資源に関連する伝統的知識から直接創作された発明について、登録出願の願書にその遺伝資源又は遺伝資源に関連する伝統的知識の由来を開示していない、又は正確に開示していない場合。
d.発明登録出願が本法第89a条に定める発明に係る安全保障に関する管理措置の実施に違反した場合。

従来法第117条改正法第117条(第1a項含む)

さらに、改正法第60条第1項では、拒絶理由に、いわゆる拡大先願(発明登録出願の出願日前、若しくはその優先日前に提出され、当該出願日又はその優先日以降に公表された他の発明登録出願があったこと)が追加された。

従来法第60条改正法第60条

(3)工業意匠
①工業意匠登録の出願に係る要件
従来法第103条では、出願に係る工業意匠の説明についての要件が複雑であった。改正法第103条では、出願に係る工業意匠の説明よりも、工業意匠の特徴を示す写真及び/又は図面のセットが重視されており、要件が緩和されていると言える。

従来法第103条改正法第103条

②出願公開の延期
従来法第110条では、出願公開の延期についての規定はなかったが、改正法第110条では工業意匠登録出願の公開の要求の延期が出願日から7ヶ月まで認められることとされている。

従来法110条改正法110条

(4)商標
①音商標
従来法第72条では、目に見える標章のみが対象とされていたが、改正法第72条では音商標(可聴的な標章)も保護対象として追加された。

従来法第72条改正法第72条

②拒絶理由
改正法第74条第2項では、以下の標章が保護されないことが追記された。また、改正法第117条では、不正目的で標章の登録出願をした場合には拒絶理由となる旨が明記された。

  • ベトナムで保護されている植物品種の名称と同一又は混同を生じる程に類似の標識。
  • 標章登録出願の出願日の前から広く知られていた、他人の著作権保護の対象となる著作物の登場人物の名称若しくは画像と同一、又は混同を生じる程に類似する標識。

従来法第74条第2項従来法第117条改正法第74条第2項改正法第117条

③失効理由
改正法第95条第1項には、手数料未納、放棄等をはじめとした保護証書の効力の終了に該当する事項が列挙されているが、新たに以下の3つが追加された。

  • 標章の所有者又は当該所有者が認めた者による、保護されている標章に係る商品又はサービスの利用が、当該商品又はサービスの性質、品質又は原産地について消費者に誤認を生じさせる場合
  • 保護されている標章が、当該標章について登録された商品又はサービスの普通名詞になった場合
  • 外国の地理的表示が、当該国で既に保護されていない場合

従来法第95条改正法第95条第1項

④周知商標
従来法第4条では、周知商標の定義は「ベトナムの領土全域に亘って広く知られた標章」とされている。改正法では、周知商標の定義は「ベトナムの領土全域にわたって関係する公衆の一部に広く知られている標章」とされた。

また、周知商標の8つの認定基準は従来法及び改正法ともに第75条に規定されている。この8つの基準について、従来法第75条の規定では、「8つの基準は,標章の周知状態を審理するときに参酌する。」とされていたが、改正法第75条では「標章の周知状態を審理するとき、次に掲げる基準の一つ又はそのすべてを参酌する。」との規定となっている。

従来法第4条従来法第75条改正法第4条改正法第75条

(5)その他
上記(1)~(4)では、特許・工業意匠・商標についての改正のポイントを示したが、著作権に関する規定の改正点も多い。以下に著作権に関する主要な改正点の項目を示す。

【出典】
1.ベトナム特許庁「SỬA ĐỔI, BỔ SUNG MỘT SỐ ĐIỀU CỦA LUẬT SỞ HỮU TRÍ TUỆ(Luật số: 07/2022/QH15)」(PDF)
2.JETRO「知的財産法の諸条項の改正及び補足に係る法律(法律第 07/2022/QH15)」(PDF)※URLはJICAのドメインとなっているが、PDFに記載がある通り提供はJETRO
3.特許庁「ベトナム 知的財産法」(PDF)
4.新興国等知財情報データバンク「ベトナムにおける第一国出願制度
5.日本弁理士会「ベトナムにおける秘密特許制度,及び第一国出願義務に関する規定につい(パテント2013)
6.現地代理人ニュースレター

【参考】
1.新興国等知財情報データバンク「ベトナムにおける知的財産の基礎的情報(全体マップ)-実体編
2.新興国等知財情報データバンク「ベトナムの特許・実用新案関連の法律、規則、審査基準等

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