[特許・実用新案・意匠/中国]専利法実施細則・専利審査指南の改正(第7編) ~ その他 ~
既報の第1編~第6編では、2024年1月20日に施行された改正専利法実施細則(以下、改正実施細則)・改正専利審査指南(以下、改正審査指南)における以下の内容を解説した。今回は、その他の内容を解説する。
第1編:手続き時期
第2編:願書・明細書の記載事項
第3編:一般的な登録要件
第4編:コンピュータプログラム関連発明の登録要件
第5編:実用新案
第6編:登録後の手続き
なお、解説には、2024年8月6日に国家知識産権局により公表された「専利手数料基準及び減額政策の一部調整に関する公告」(以下、手数料調整公告)等に関する内容が含まれる。
1.庁費用関連
(1)手数料調整公告
専利法律・法規の改正に伴う庁費用の改正にあたっては、国家発展と改革委員会(特許庁をはじめとする国家機関が徴取する料金の基準や改正を主管する部門であり、中国で「発改委」と略される)による承認が必要となる。通常、発改委の承認を得た上で、庁費用の改正は、専利法律・法規の改正と同時期に公表され、改正専利法律・法規の施行と同時に新たな庁費用の適用が開始される。
今回、以下の時系列図に示すように、庁費用の改正が規定されている手数料調整公告は、改正実施細則および改正審査指南の施行時点(2024年1月20日)よりも遅れて、2024年8月6日に公表された。さらに、新たな庁費用については、手数料調整公告の公表時点ではなく、庁費用の改正に関連する通知を発改委の公表した時点である2024年7月26日に遡って適用開始されることが手数料調整公告に示された。
(2)優先権の回復請求等の手続きにおける庁費用
改正実施細則および改正審査指南により、優先権の回復請求、優先権主張の追加/訂正請求、および優先権基礎出願の援用に基づく出願書類の補正請求が導入された。手数料調整公告によれば、これらの手続きに対する新たな庁費用項目は設けられておらず、既存の庁費用項目が適用されている、あるいは庁費用自体が不要となっている。具体的な内容を下表に示す。
優先権の回復請求に関しては、日本における故意でない基準と、中国における正当な理由がある基準とでは、基準が異なっているが、庁費用の金額の面のみを比較すると、中国の1,000中国元は日本の212,100円よりかなり安いと言える。
(3)PCT中国国内段階の実体審査請求料の減額廃止
従来、日本特許庁、欧州特許庁、またはスウェーデン特許庁が国際調査報告を作成したPCT出願の中国移行に関しては、実体審査請求料が2割引となっていた。改正審査指南第三部分第一章第7.2.2節からは、上記割引に関する規定が削除され、2割引が廃止されることになった。
上記(1)に解説した通り、2割引の廃止は、中国への移行日が2024年7月26日以降の案件に適用される。
2024年7月26日前後の実体審査請求料、および現地代理人からの情報による、納付した庁費用に過不足がある場合の取り扱いを、下表に示す。
2.新規性喪失の例外
改正実施細則第33条第2項には、新規性喪失の例外が適用される条件のうち、学術/技術会議の主催者の条件が下表のように緩和されることが規定され、従来よりも利用しやすい制度になると考えられる。
ただし、現時点では、認められる国際組織または認められる国際組織による学術/技術会議のリストは発表されていない。また、新しく認められることとなった中国国務院の関連主管部門に認められた国際組織による学術/技術会議で発表した場合であって新規性喪失の例外の適用を受けたいと考える場合、どのような証明資料を提出すべきかが気になるが、現時点では詳しいことはわかっていない。
3.書誌的事項の変更
(1)書誌的事項の一括変更
複数の専利出願の同一の書誌的事項を全く同じ内容で変更する場合、従来、対象となる出願それぞれに対して書誌的事項変更登録申請書を「別々に提出」する必要があったが、改正審査指南第1部分第1章第6.7.1.1節には、「一括で提出できる」と規定されている。
また、従来、権利の移転を伴わず複数の専利出願・専利権に対し、出願人・専利権者の氏名等を一括で変更申請する場合、対象となる出願「それぞれについて書誌的事項変更料200元を納付」する必要があったが、手数料調整公告では、「1件の書誌的事項変更料として200元を納付」することとなった。
なお、現地代理人によれば、一括変更の上限は100件であり、特許・実用新案・意匠については別々に手続きを行う必要があるとのことであった。
(2)発明者変更の手続き
従来、審査指南には発明者変更を請求する際の提出書類が規定されていたが、改正審査指南第一部分第一章第6.7.2.3節では、下表のように改正されている。
従来、証明書類に何を記載するかというような記載要件は規定されていなかった。実際、必要と考えられる記載内容を証明書類に記入し、発明者変更の手続きをしたところ、中国特許庁から記載内容を追記し証明書類を再提出することを要求された経験もある。今回の改正により、証明書類の記載要件が追加されたため、出願人は必要な記載内容を正確に把握でき、スムーズに発明者変更の手続きを完了できるようになると考えられる。一方、従来はなかった時期的要件が追加され、出願受理通知書を受領した日から1ヶ月以内に請求しなければならないため、留意する必要がある。
4.審判段階の手続き
(1)復審の前置審査段階における審査官シフト
改正審査指南第4部分第2章第3節では、前置審査の主体について、従来の「拒絶査定を下した元審査部門」から「拒絶査定を下した元」との文言が削除され、「審査部門」に変更された。文言だけ考えると、元審査部門か別の審査部門かは問われないと思われる。しかしながら、中国特許庁による改正説明会によれば、改正後の前置審査の主体は別の審査部門であり、元審査部門ではないことが説明された。
この変更により、拒絶査定を別の審査部門が新に審査することで客観性が高まることが期待されている。前置審査段階で拒絶査定が取消される事例が実際に増加するか否かについては、改正審査指南の施行からまだ短期間であるため、統計や実績は出ていない。
実務上、従来、前置審査の主体は元審査部門であったため、出願人(復審請求人)は拒絶理由や拒絶査定の通知書により審査官の連絡先を把握でき、インタビューを行うことが可能であった。現在は別の審査部門が前置審査を行うことになったため、前置審査を担当する審査官の連絡先が分からなくなり、前置審査段階でのインタビューは不可能になってしまった。元の審査官とインタビューを行っても意味がないため、インタビューの利用を希望する出願人にとって不利であるのではと考えられる。
(2)域外証拠の証明手続きの緩和
中国は「外国公文書の認証を不要とする条約」に締約し、同条約が2023年11月7日に発効したことを受け、無効審判における域外証拠の証明手続きを規定する審査指南第4部分第8章第2.2.2節が改正された。従来、無効審判における域外証拠は、当該証拠が生じた国に在る中国大使館・領事館による領事認証手続きを経た上で提出される必要があった。改正により、証拠が生じた国での公証手続きを経る、または証拠が生じた国との間で締結した関連条約を履行する必要があるとの規定に変更された。これにより、無効審判段階での域外証拠の証明手続きが緩和された。
日本は、中国と同じく上記条約の締約国である。日本で生じた証拠を中国特許庁の審判部門に提出する場合の手続きに関する変更を、下表に示す。
また、すでに発効した人民法院の裁判、行政機関の決定または仲裁機構の裁決により確認された域外証拠であれば、当該域外証拠を無効審判にて提出する場合に、改めて証明手続きを受ける必要はないとの規定も追加された。例えば、特許権侵害訴訟では外国でなされた実験データ証拠について既に証明手続きを経て裁判が下された場合、関連する特許無効審判では同じ証拠の証明手続きが不要になることが想定される。この改正により、当事者の負担が軽減され、手続きの効率化が向上することが期待される。
(3)オンライン口頭審理の許容
2020年以降、新型コロナウイルス感染症対策の特例措置として、オンラインで口頭審理が行われることが認められてきた。改正審査指南第4部分第4章第2節には、オンライン口頭審理およびオンライン・オフライン組み合わせ式の口頭審理が認められると規定されており、特例措置が恒久化された。
しかし、複数の現地代理人に確認したところ、現在は新型コロナウイルス感染症が終息していることもあり、以下の理由によりオンライン口頭審理は稀になってきたとのことである。
・無効審判においてオンライン口頭審理を行うためには、無効請求人・専利権者・合議体の3者が同意する必要がある
・オンライン口頭審理よりもオフライン口頭審理の方が、よりスムーズにコミュニケーションできる
【出典】
1.中国国家知識産権局「国家知识产权局关于调整部分专利收费标准和减缴政策的公告(第594号)」
2.中国国家発改委「关于专利权补偿期年费标准等有关事项的通知 发改价格〔2024〕1156号」
3.JETRO「『専利審査指南』(2023)改正についての解説(六)」
4.ウィキペディア「外国公文書の認証を不要とする条約」
5.東京法務局「公証人押印証明」
6.外務省「公印確認・アポスティーユとは」