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知財判決ダイジェスト

特許 令和5年(行ケ)第10139号「遊技機」(知的財産高等裁判所 令和6年10月9日)

【事件概要】
 拒絶査定不服審判請求と同時にする補正を却下した審決の手続きの違法性の有無が争われた事例である。
 拒絶査定で引用された文献(引用文献1)には引用発明1及び引用発明2というそれぞれ異なる発明が記載されていたところ、本件審決は、引用発明1に基づいて拒絶査定不服審判請求と同時にする補正(本件補正)を却下するとともに、引用発明2に基づいて本件補正前(却下後も同じ。)の発明(本願発明)を拒絶すべきものとして、審判請求を不成立とした。原告(審判請求人)は、審査では引用発明2の存在に基づく拒絶理由通知がされ、審決に至るまで引用発明1の存在に基づく拒絶理由通知はされず、引用発明1の存在に基づく拒絶理由に対しての防御機会は与えられなかったから、特許法159条2項、50条本文違反の手続違背がある(取消事由4)などと主張していた。
判決要旨及び判決全文へのリンク

【主な争点】
 審判請求手続の手続違背(拒絶理由通知欠缺)の有無

【判示内容】
 裁判所は、上記争点について概略次のように判示して、原告の請求を棄却した。

 「法文上、本件補正のように、拒絶査定不服審判請求と同時に特許請求の範囲を減縮することを目的とした補正がされた場合において、当該補正が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反すること(独立特許要件違反)を理由に同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により補正を却下するときは、拒絶の理由を通知することは要求されていない(同法159条2項において読み替えて準用する同法50条ただし書。なお、同条本文によれば、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合には、拒絶の理由を通知する必要があるが、本件において本願発明の拒絶の理由となったのは、拒絶査定の理由と同じ引用発明2であるから、改めて拒絶の理由を通知すべき場合には該当しない。)。同法159条2項において読み替えて準用する同法50条ただし書は、同法17条の2第1項1号、3号又は4号に掲げるいずれの場合であるかによって、拒絶の理由の通知義務の有無を区別しておらず、いずれの場合においても審査の遅延を防ぐ必要があることに変わりはない。拒絶査定不服審判の請求と同時にされた補正について独立特許要件違反があることを理由に却下しようとする場合にのみ、拒絶の理由を通知すべき義務があると解すべき条文上の根拠は見当たらない。したがって、独立特許要件違反を理由に本件補正を却下するに当たり、拒絶査定の際に提示しなかった引用発明1を根拠にし、その拒絶の理由の通知をしなかったとしても、原則として、特許法に違反するということはできないというべきである。」

【コメント】
 本判決と同様に、審判請求時の補正の補正要件のうち独立特許要件を検討した結果、拒絶査定の理由と異なる理由で補正却下することに手続上の瑕疵はない旨を判示する裁判例として、例えば平成15年(行ケ)第475号判決(東京高裁平成16年9月30日)が存在する。他方で、実質的な防御の機会を保障しないまま、拒絶査定の理由と異なる理由で独立特許要件の欠如を理由に補正却下することは適性手続違反となる(おそれがある)旨を判示する裁判例として、例えば令和4年(行ケ)第10052号(知的財産高等裁判所令和5年2月16日)、平成26年(行ケ)第10272号判決(知財高裁平成28年2月17日)、平成22年(行ケ)第10298号判決(知財高裁平成23年10月4日)が挙げられる。本件は、独立特許要件違反が審判請求と同時にされた補正の却下理由となる場合において、独立特許要件違反と判断しうる理由と拒絶査定の理由との関係を考える上で参考になると思われる。

 ところで、本判決は、さらにすすんで、引用発明1及び引用発明2は同じ引用文献1に基づくものであって、その内容には共通部分がある上、当該文献は拒絶理由通知書に引用されており、原告(出願人・請求人)には当該文献の記載内容を検討する機会が十分に与えられていたから、原告に対する不意打ちには当たらない旨も判示して、本件の個別具体的事情を踏まえても手続違背の違法はないと判断している。もっとも、特許公開公報である引用文献1は、発明の詳細な説明が段落【5424】まで、また図面が【図471】まで存在するなど記載が極めて大部であることから、程度の問題といえそうではあるが、文献の記載内容を検討する機会が十分に与えられていたとの判断は、原告にとって若干酷かもしれない。

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