特許 令和5年(行ケ)第10125号「動画像復号装置及び動画像符号化装置」(知的財産高等裁判所 令和6年9月11日)
【事件概要】
訂正請求書についての補正が要旨変更に当たり、訂正請求は訂正要件を満たしておらず、本件発明はサポート要件を満たしていない、として特許を取り消した特許異議の決定が、維持された事例。
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【主な争点】
訂正請求書についての補正の適否、(補正前の)訂正請求書による訂正の適否、サポート要件、に関する各判断誤りの有無。
【結論】
1 訂正請求書についての補正の適否について
本件補正前の訂正事項1は構成要件B1-2、訂正事項2は構成要件A1-3及びC1-2を対象とするのに対し、本件補正後の訂正事項1、2はいずれも構成要件B1を対象としている。そうすると、補正の前後で、訂正を申し立てている事項の範囲が変更され、訂正請求としての同一性が失われている。よって、本件補正は、本件訂正に係る訂正請求書の要旨を変更するものであるから、本件補正は特許法120条の5第9項、131条の2第1項に適合しない。
2 (補正前の)訂正請求書による訂正の適否について
本件明細書における「変更フラグ」、「閾値Th」及び「最大ベクトル数」は、いずれも「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」に該当せず、本件明細書等において、他に上記情報に該当する情報に関する記載は見当たらない。したがって、「当該インデックス情報に基づき選択される動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」との事項は、本件明細書等に記載された事項ではない。訂正事項2による訂正は、本件明細書等に記載のない事項を更に限定する訂正事項を含むものであるから、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
3 サポート要件について
本件発明1は構成A1-3「および当該インデックス情報に基づき選択される動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」・・・との発明特定事項を含むところ、「動きベクトル候補の数を変更するための制御情報」が本件明細書に記載されていないことは前記2のとおりである。そうすると、本件発明1、2は、いずれも、発明の詳細な説明に記載された発明でないというよりほかなく、サポート要件に適合しない。
【コメント】
1 特許異議申立ての手続における取消理由通知への応答としての訂正請求が訂正要件を満たしていないと判断された場合には、訂正拒絶理由が通知され(特許法120条の5第6項)、その応答期間中は訂正請求書とそれに添付した訂正特許請求の範囲等の補正が可能ではある(特許法17条の5)。しかし、その補正が許されるのは、審判便覧67-05.3の4.(3)イで説明されているように、訂正事項の削除、軽微な瑕疵の補正等、訂正請求書の要旨を変更しないものに限られている。そのため、訂正要件を満たさない訂正請求をしてしまうと、その治癒は難しい。そして、訂正要件違反が治癒されない場合には訂正請求は認められず、取消理由通知が決定の予告としての取消理由通知であった場合には、そのまま特許取消決定に至る可能性が高い。本件は、そのような流れに沿って特許取消決定に至ったケースと思われ、他山の石としたい。
2 本件は、分割出願時に、原出願明細書に記載されていない事項(新規事項)が特許請求の範囲に記載されたが、そのまま特許査定されて登録に至ったケースのように思われ、サポート要件違反を訂正によって治癒すること自体が困難であったケースであったようにも思われる。特許請求の範囲に新規事項が導入されたまま特許査定に至った場合には、訂正による治癒が困難な場合があることにも留意したい。