特許 令和5年(行ケ)第10098号「衣料用洗浄剤組成物」(知的財産高等裁判所 令和6年5月14日)
【事件概要】
無効理由として引用発明に基づく進歩性欠如並びにサポート要件違反等が主張され、いずれの無効理由も認められないとした特許無効審判請求不成立の審決の取消訴訟において、進歩性の判断に誤りがあるとして審決を取り消したものの、サポート要件に関する審決の判断には誤りがないとした事例
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【主な争点】
サポート要件違反の有無に関する審決の判断の誤りの存否
【判示内容】
「本件発明1に規定された組成を充足する組成物である実施例の防臭効果の評価の結果をもって、本件発明1の効果が、本件各発明の構成が奏するものとして当業者が予測することのできなかったものである、あるいは当該構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著なものであるとは認められない。すなわち、本件発明1による効果が、甲1発明における相違点1ないし3に係る発明特定事項を適用した場合に奏するものとして当業者が予測することができた範囲を超える顕著なものであるとは認められない。」
「本件各発明の課題は、衣類が湿った状態で菌が増殖しやすい環境においても、防臭効果に優れる衣料用洗浄剤組成物を提供することである。」
「本件発明1の実施例に該当するものの防臭効果が、『3点:異臭がやや強く感じられる』という程度であったとしても、一定の防臭効果が得られたことは、本件防臭効果評価の結果によって認められる。(E)成分を配合した実施例10及び11は、他の実施例に比べてさらに優れた防臭効果が得られているが・・・、(E)成分を含有しない本件発明1の実施例についても一定の防臭効果が得られたといえる。そうすると、本件各発明の効果が予測できない顕著なものであったとはいえないものの・・・、サポート要件違反の有無についてみれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らし、本件発明1は、当業者が前記・・・の課題を解決できると十分に認識できる範囲のものであり、かつ、発明の詳細な説明に記載されたものということができる。」
【コメント】
本判決は、特許無効審判請求を不成立とした審決について、その進歩性の判断に誤りがあるとして審決を取消したが、その理由の一つとして、本件各発明が奏する効果は当該発明の構成から当業者が予測することのできた範囲を超える顕著なものとは認められない旨判示している。一方で、本判決は、本件各発明のサポート要件違反の有無について、本件各発明の効果が予測できない顕著なものであったとはいえないとしつつ、本件各発明は本件明細書の記載に照らして認定しうる課題を解決できる範囲のものである旨判示してサポート要件を満たすと判断した。
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かの判断基準について、知財高裁大合議平成17年11月11日判決は「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべき」との規範を示し、本判決もこれに倣っているところ、ときにこの規範における発明の課題をどのように認定すべきかが問題となる。この点、出願時の先行技術に照らして解決できる課題でなければならないとの主張がたまに見受けられるが、多くの裁判例は、その判断基準の枠組みに進歩性の判断を取り込むべきではない、出願時の技術水準等との比較はあくまで進歩性の問題として行うべきであるなどとする(例えば、知財高裁大合議平成30年4月13日判決、知財高裁平成30年5月24日判決参照)。本判決は、これら裁判例と同様、サポート要件の考え方を理解する上で参考になると思われる。