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知財判決ダイジェスト

特許 令和5年(行ケ)第10091号「バリア性積層体、該バリア性積層体を備えるヒートシール性積層体および該ヒートシール性積層体を備える包装容器」 (知的財産高等裁判所 令和6年4月22日)

【事件概要】
 訂正後の本件発明1~16は、甲3発明、甲4記載事項及び周知技術に基づき容易に発明することができないとして、特許取消決定が取り消された事例。
判決要旨及び判決全文へのリンク

【主な争点】
 甲3発明において甲4記載事項を参考にして、相違点1-2および相違点1-3に係る構成が容易に想到できるかどうか。

【結論】
(1) …本件明細書によれば、珪素原子と炭素原子の比(Si/C)の上限は、バリア性積層体を屈曲させてもガスバリア性の低下を抑制できるという観点から定められ、下限は、バリア性積層体を加熱してもガスバリア性の低下を抑制できるという観点から定められているのであるから・・・ボイル又はレトルト用であるか否かに係る相違点1-3と、珪素原子と炭素原子の比の数値範囲に係る相違点1-2は、一体として検討されるべきものである。

(2) 本件決定は、甲3発明に、甲4記載事項のオーバーコート層における炭素原子に対する珪素原子の比率を適用するものである。しかし、甲4記載事項は、前提とする積層構造が、甲3発明と異なる上、…甲4は、甲3発明とは技術分野が共通するものとはいい難く、さらに、相違点1-3に係る構成(ボイル又はレトルト用)を開示又は示唆するものでもない。…その上、甲3…には、…炭素が少なすぎると膜質が脆くなることが示唆されているのに対し、甲4…には、金属原子に対して炭素原子の数が過剰に多くなるとオーバーコート層の脆性が大きくなって、ガスバリア性の低下につながる旨の記載があるところ、これは、上記甲3の…記載と正反対の内容である。

 そうすると、当業者において、甲3発明の食品包装材料についてボイル又はレトルト用途とすることを想起したとしても、甲4におけるオーバーコート層を構成する原子における金属原子の比率は加熱によってもガスバリア性が維持されるかどうかとは関わりのないものであること、甲4には、炭素原子と金属原子の比率と、膜質の脆性について、甲3と正反対の記載があることに鑑みても、甲3発明とは技術分野も積層構造も異なる真空断熱材用外包材に関する甲4の積層体の中から、オーバーコート層付きフィルムの中のオーバーコート層及び無機層に関する記載に着目した上、オーバーコート層における炭素原子に対する金属原子の比率(金属原子数/炭素原子数)を参酌して、甲3発明に適用する動機付けを導くには無理があるというほかなく、本件決定の判断には誤りがある。

【コメント】
 被告は、「本件発明1の発明特定事項が『バリアコート層が、金属アルコキシドと水溶性高分子との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜であるか、または、金属アルコキシドと、水溶性高分子と、シランカップリング剤との樹脂組成物から構成されるガスバリア性塗布膜』と択一的なものになっており、シランカップリング剤には珪素が含まれるにもかかわらず、本件明細書上効果が確認されているのはシランカップリング剤を含むバリアコート層だけである」から、シランカップリング剤を含まないバリアコート層を選択した場合、(Si/C)の数値範囲に特段の技術的意義はない旨主張した。

 しかし、裁判所は、「シランカップ剤を含まないバリアコート層について技術的意義がないとは直ちにいえないし、そもそも、技術的意義が裏付けられているかどうかと、構成が容易想到といえるかどうかの問題は直結するものではない。」と判断し、被告の主張は採用されなかった。

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