特許 令和5年(行ケ)第10037号「有機性廃棄物処理システム」(知的財産高等裁判所 令和6年4月10日)
【事件概要】
無効審判において共同出願要件(特許法38条)違反は成り立たないと判断した審決を知財高裁が支持した事例である。
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【争点】
審判請求人(特許公報に共同発明者として表示)から特許を受ける権利を譲り受けることなく特許権者が特許出願したという審判請求人の主張が認められるか。
【結論】
個々の発明特定事項のほぼ全て(「硫化成分を除去したバイオガスから二酸化炭素を取り除くガス精製装置」という発明特定事項における「ガス精製装置」が「硫化成分を除去したバイオガス」から二酸化炭素を取り除くこと、「固液分離装置において有害物質を加圧浮上分離された消化液が前記亜臨界水処理装置、前記メタン発酵装置又は前記固液分離装置において再利用されること」という発明特定事項における「消化液」が「固液分離装置において有害物質を加圧浮上分離された」ものであること及び「亜臨界水処理装置」又は「固液分離装置」「において再利用されること」を除く。)が本件特許の出願前の公知文献に記載された技術的事項であるから、本件発明1の特徴的部分である特徴的部分Aは、本件発明1の個々の発明特定事項を全て組み合わせたものであり、原告X’がその完成(すなわち個別の構成要素ではなく、それらを組み合わせること)にどのように創作的に寄与したかが問題となる。
しかし、原告らが特徴的部分Aを具体化したとするエコワークス苫小牧等のシステム、スリックスシステム、はやしミルクファームシステムは、以下のとおり、いずれも、特徴的部分Aを全て含むものではない。
・・・原告X’が発明したと認められるのは本件発明1の個々の発明特定事項の一部であって、本件発明1の発明特定事項を全て組み合わせたものである特徴的部分Aを原告X’が単独で着想し、完成させたことを示す証拠はない。
もちろん、共同発明者といえるためには、他の発明者と共同して発明の特徴的部分の完成に創作的に寄与することをもって足りるが、そのような具体的事実についての原告らの主張はなく、裏付けとなる証拠もない。
・・・陳述書(乙20)及び本件審判における口頭陳述(乙23)中で、本件特許を事業化する上で原告会社の販売する装置の採用を予定していたところ、出資者に対しては共同発明者であることを理由とした方が説明しやすいと考えたためであると述べているところ、その内容には一応の合理性が認められる・・・そうすると、上記発明者の記載をもって、被告が原告X’を共同発明者と認識していた事実を推認させるということはできない。
【コメント】
本件発明(有機性廃棄物処理システム)の一部の構成で使用される装置を担当する審判請求人は、本件発明の全ての構成(個々の発明特定事項のほぼ全てが公知技術)を含む「有機性廃棄物処理システム」の本来の「発明者」ではないことから、共同出願要件違反は認められなかった。
また、特許出願書類に表示された「発明者」は、その事実を推認させるものではあるが、本件のように当事者間に争いがあれば裁判所において真偽が審理される。