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知財判決ダイジェスト

特許 令和5年(行ケ)第10019号「IL-4Rアンタゴニストを投与することによるアトピー性皮膚炎を処置するための方法」(知的財産高等裁判所 令和6年8月7日)

【事件概要】
 無効審判において進歩性ありと判断した審決を知財高裁が支持した事例である。
判決要旨及び判決全文へのリンク

【争点】
 第Ⅱ相試験(フェーズ2)の臨床試験のプロトコル(試験実施計画書)に基づき、臨床試験の対象に係る医薬用途発明の進歩性を否定できるか。

【結論】
(2) 容易想到性の判断の誤りについて

ア 原告は、甲1の試験(第Ⅱ相試験)に先立ってアトピー性皮膚炎患者に対するREGN668の第Ⅰ相試験が行われ、引用発明に係るREGN668が医薬品としての有用性が期待できる薬物であると既に判断されており、アトピー性皮膚炎がTh2/IL-4等が優勢な疾患であるという正しい技術常識に照らし、抗ヒトIL-4抗体であるREGN668が奏功することは当業者が予測できたことであると主張する。

・・・

たとえ上記優先日前に、アトピー性皮膚炎の治療が可能になるような化合物(抗体等)の標的となり得る抗原である特定の細胞とサイトカイン(Th2/IL-4)が知られていたとしても、他の多くの細胞とサイトカインも作用することが知られている中で、Th2/IL-4の働きを阻害することで、本件患者を含む慢性アトピー性皮膚炎の治療効果を奏するかどうかまで、当業者が認識できたとはいえない

・・・

ウ また、甲1における試験段階は第Ⅱ相試験であり、甲21によれば、第Ⅰ相試験(フェーズ1)からの移行の成功率は63.2%(n=3,582)であり、第Ⅱ相試験(フェーズ2)から第Ⅲ相試験(フェーズ3)への移行の成功率は更に低く、30.7%(n=3,862。アレルギー疾患の場合には33%)にすぎないことが認められる。しかも、甲1に記載された情報は臨床試験のプロトコル(試験実施計画書)にすぎず、実際の試験結果については記載されていない。そうすると、甲1に記載された治験薬が、試験結果をみるまでもなく当然に治療上有効であると当業者が理解するともいえない。

【コメント】
 第Ⅱ相試験(フェーズ2)の臨床試験まで実施されていることから、「治験薬」であっても高い確度をもって「医薬」(医薬用途発明)として当業者に認識されていたと考えたいところであるが、甲1には「治験薬」に係る情報が記載されているものの、その臨床試験の試験結果が記載されていないことから、「慢性アトピー性皮膚炎」に関与する生物学的プロセスの複雑さを考慮して、本件発明に係る「医薬」(医薬用途発明)の進歩性は否定できないと判断された。

 一方、同じ「臨床試験計画(治験プロトコル)」に基づく進歩性の判断であっても、令和2年(行ケ)第10094号では、下記のように進歩性欠如と判示されている。

「ア 甲1発明の臨床試験の「相」に係る主張について

 原告は、本件審決が、第Ⅲ相試験について、有効性や安全性が期待される疾患を有すると診断された多数の患者を対象とするものであるという技術常識を前提に判断した点において、誤っている旨を主張する。

 しかし、前記(1)のとおり、甲1発明の臨床試験が第Ⅲ相であることを考慮しなくとも、本件発明1は、甲1発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明することができたものといえる。」

 してみると、いずれの判決も適応疾患分野ごとの「技術常識」に基づいているものの、医薬用途発明の進歩性に関しては異なる判断がなされており、本件判決は、医薬用途発明全般に適用できる裁判例ではなく、「技術常識」に依存した「事例判決」と考えるのが妥当である。

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