特許 令和5年(行ケ)第10012号「凹凸状シボパターン補修用マスキングシート、及び、凹凸状シボパターン補修方法」(知的財産高等裁判所 令和5年10月12日)
【事件概要】
本件発明1(マスキングシート)及び本件発明2(補修方法)は、甲1に記載された発明(引用発明)であり、仮に、そうでないとしても、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであるとして、本件発明1及び2についての特許を無効とした審決が維持された事例。
・本件発明1
開口部を形成したシート材からなるマスキングシートであって、
開口部は、該開口部に張られた多数の線状構造で多数の透孔に区画されており、
多数の線状構造は、多数の独立した凸部と個々の凸部の周囲に形成される凹部とを所定のパターンで備えて構成されたシボのパターンである凹凸状シボパターンにおける凹部の形成パターンに対応するようにパターン形成され、
多数の透孔は、前記凹凸状シボパターンの凸部の形成パターンに対応するようにパターン形成されている、ことを特徴とする凹凸状シボパターン補修用マスキングシート。
・引用発明1
厚さ0.1mm程度の銅板からなり、開口が設けられている転写プレートであって、
転写プレートの開口部分は、多数の開口間部分で多数の開口に区画されており、
多数の開口間部分は、所謂シボの加工の凹凸模様の凹部と同じ形状に形成され、
多数の開口は、所謂シボの加工の凹凸模様の凸部と同じ形状に形成された転写プレート。
【主な争点】
引用発明1の認定誤り、本件発明1との相違点の看過(取消事由1)
【判示内容】
原告は、引用発明1のプレートは樹脂成形品の補修のみに用いることができる転写プレートであり、本件発明1とは異なるとして、本件審決には、引用発明1の認定を誤り、本件発明1との相違点を看過した違法がある旨主張する。
しかし、本件発明1の特許請求の範囲の記載・・・において、補修対象から樹脂成形品を除外する限定がないことはもとより、本件明細書・・・においても、樹脂成形品を本件発明1の補修対象から除外する趣旨の記載は見当たらない。かえって、本件明細書・・・には、凹凸状シボパターンが施された車のシートやテレビのキャビネット、その他の物(自動車、家具等)及び場所(家、車庫等)が補修対象として示されているところ、その中には樹脂成形品が含まれることは、本件特許の出願当時の当業者の技術常識といえる。
そうすると、引用発明1の内容として原告の主張するところ(補修対象を樹脂成形品のみに限定)を前提としても、「樹脂成形品を補修対象とする補修用マスキングシート(プレート)」の発明という点で本件発明1と異なるところはなく、本件発明1との相違点が導かれることにはならない。
【コメント】
甲1は特許公開公報であるところ、筆者においてその記載内容をみると、特許請求の範囲には「樹脂成形品の補修方法」と記載されており、また背景技術、解決しようとする課題、発明を実施するための形態、実施例などの欄にも補修の対象として樹脂成形品が記載されているのみである。そうすると、審決が甲1に記載されている発明として認定すべき引用発明1は、原告主張のとおり、例えば「樹脂成形品を補修対象とする転写プレート」とすべきであったかと思われる。
しかし、仮にこのような誤りが審決にあったとしても、本件発明1との間で新たな相違点が導かれることにならないといえるのは、判決が判示するとおりであろう。
なお、判決が、「補修用マスキングシート」という物の発明である本件発明1において、その用途(補修対象)を特定の物品に限定するものではなく、特定の物品(本件では樹脂成形品)を除外するような限定をするものについてまで、このような限定が何らかの構造等を有することになる旨示唆している点は興味深い。