特許 令和4年(行ケ)第10131号「熱伝導性ワイヤ編物を用いた熱交換装置」(知的財産高等裁判所 令和5年11月15日)
【事件概要】
審決に相違点の認定の誤りはなく、本願発明は引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとして、拒絶査定不服審判の請求不成立審決が維持された事例。
【争点】
相違点の認定の誤り。
【結論】
ア …本願発明における「金属枠」について、本願明細書には、(a)一定の形状構造を保持して他の加工を容易にする、更なる加工と使用を便利にする機能、及び、(b)…という二つの機能を備えることが記載され、上記(a)については、熱伝導性編物を円筒や円錐台筒に加工した例が記載されている。一方、「金属枠」自体の物理的な形状や、形状のもたらす効果について、本願明細書には特に記載されていない。
そうすると、本願発明における「金属枠」とは、「熱伝導性編物を一定の形状構造に保持…する機能を有する部材」(以下「形状保持部材(枠)」という。)のうち、材質が金属であるもの…である…。…
一方、引用発明における「固定部材11」は、「可撓導体6」を「…輪にした後、輪の中央部を固定部材11で挟むことでリボン形状を成す」機能を有する…から、本願発明における「金属枠」と「熱伝導性編物を一定の形状構造に保持」する機能の点で一致する。
…
イ 以上を踏まえ、構成Bについて本願発明と引用発明とを対比する。
…
次に、引用発明における「固定部材11」は、熱伝導性編物を一定の形状構造に保持し熱を伝導する機能を有する部材である点で、上記「形状保持部材(枠)」と一致する…。そうすると、本願発明における「金属枠」と引用発明における「固定部材11」は、…「形状保持部材(枠)」である点で共通し、引用発明の「固定部材11」は金属製であるとは特定されていない点で相違する。
…
したがって、本件審決が、相違点1として、本願発明と引用発明とは「前記熱伝導性編物は形状保持部材を含む点で共通」し、「形状保持部材が、本願発明は「金属枠」…に対して、引用発明の「固定部材11」は、…材質…が特定されてない点で相違する。」と認定した点に誤りはない。
【コメント】
原告は、「枠」とは「物の周囲をふちどる線。また、境などを示すため、四方を取り囲むもの。」であり、本願発明の「熱伝導性編物の金属枠」は熱伝導性編物の周囲をふちどって熱伝導性編物を一定の形状構造に保持するものであると主張したが、裁判所は、「枠」には「木・竹・金属などの細い材で造り、器具の骨または縁としたもの。フレーム」の意味もあり、本願発明における「枠」は「形状保持部材(枠)」、すなわち、熱伝導性編物を一定の形状構造に保持し、熱を伝導する機能を有する部材として特定されたものであり、その形状が特定されているものではないと判示して、原告の主張を認めなかった。しかし、「枠」は、裁判所の指摘どおりの意味に解したとしても、器具の骨や縁となる細い材を指すし、本願明細書に記載された「金属枠」の機能(a)の具体例(熱伝導性編物を円筒や円錐台筒に加工すること)も、「枠」が細い材からなることと整合するように思われるので、「その形状が特定されているものではない」との判示には、やや違和感を覚える。