特許 令和4年(行ケ)第10111号「車両ドアのベルトラインモール」(知的財産高等裁判所 令和5年7月25日)
【事件概要】
進歩性の判断を誤ったとして、特許を維持した特許無効審判の審決が取消された事例。
【主な争点】
本件発明1に係る相違点1の進歩性判断の誤りの有無、相違点2の認定誤りの有無。
【結論】
ア 相違点1は、「縦フランジ部(12)の下部から内側方向に延びる段差部(13c)」が、本件発明1においては、縦フランジ部の下部から内側方向に「ほぼ水平に」延びる段差部であるのに対して、甲1発明1においては、縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス側方向に「やや下方に」延びる段差部であるというものである。・・・相違点1においては、段差部が「ほぼ水平」に延びるか「やや下方」に延びるかという点のみが問題となる。そこで検討するに、本件明細書には、段差部が縦フランジ部の下部から内側方向に「ほぼ水平に」延びることの技術的意義についての記載はない。また、・・・段差部が「ほぼ水平に」に延びても「やや下方」に延びても、本件発明の作用効果に何ら影響するものではない。そうすると、・・・甲1発明1において「やや下方に」延びる段差部を「ほぼ水平に」延びるように構成することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないというべきである。
イ 相違点2は、「前記段差部の端部より下側に延在させた部分」が、本件発明1では前記段差部の端部より下側に延在させた「引掛けフランジ部」であるのに対して、甲1発明1では前記段差部の端部より下側に延在させた「部分」であるというものである。・・・甲1には、アウタパネルとモールディング(ベルトラインモール)の位置関係について直接的に説明する図面は記載されていないものの、モールディングが、「金属ストリップ材を横断面略U字形に折曲げ成形した芯材の外表面部を合成樹脂で被着し」たもので、「車体のドアの上縁辺に沿って嵌着固定」されるものであるとの記載があること、甲1発明1のモールディングの形状及び、・・・、一部切除がされていない部分ではベルトラインモール自体が車体ドアに嵌着固定されているものであることからすると、甲1発明1において、アウタパネルは、ベルトラインモールの下向きの略U字状に折り曲げられた芯材の外側と、内側の間に挟み込まれて固定されているものと容易に理解できる。・・・以上のとおりであるから、甲1発明1の段差部の端部より下側に延在させた「部分」は、本件発明1の「引掛けフランジ部」に相当する部分であると認めるのが相当であり、甲1発明1においては単に特段の名称が付されていないにすぎないというべきであって、実質的に相違するものであるとはいえない。したがって、相違点2は実質的な相違点とはいえないから、本件審決には、相違点2に係る判断に誤りがある。
【コメント】
相違点1についての判決の指摘も、相違点2についての判決の指摘も、いずれも妥当に思われる。審判体がプロパテントの傾向を慮る余り、特許無効との判断をすることに消極的になっているのではないかと思わせるような事例である。