特許 令和4年(行ケ)第10097号「アミノシラン、シリコン含有膜の形成用前駆体、シリコン含有膜の形成用組成物」(知的財産高等裁判所 令和6年1月16日)
【事件概要】
この事件は、特許無効審判の請求を不成立とした審決の取消しを求める事案である。
裁判所は原告の請求を棄却した。
【争点】
甲1に記載された発明の化学物質として「ジイソプロピルアミノシラン」を認定することができるか否か。
【結論】
…「刊行物」に物の発明が記載されているというためには、同刊行物に当該物の発明の構成が開示されていることを要することはいうまでもないが、発明が技術的思想の創作であること(同法2条1項)に鑑みれば、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技術的思想が開示されていることを要するものというべきである。
特に、少なくとも化学分野の場合、化学物質の化学式や名称を、その製造方法その他の入手方法を見いだせているか否かには関係なく、形式的に表記すること自体可能である場合もあるから、刊行物に化学物質の発明としての技術的思想が開示されているというためには、一般に、当該化学物質の構成が開示されていることに止まらず、その製造方法その他の入手方法を理解し得る程度の記載があることを要するというべきである。また、刊行物に製造方法その他の入手方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見いだすことができることが必要であるというべきである。
…、甲1に接した本件優先日前の当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、本件優先日前の技術常識に基づいて、ジイソプロピルアミノシランの製造方法その他の入手方法を見いだすことができたとはいえない。
したがって、甲1に記載された発明の化学物質として「ジイソプロピルアミノシラン」を、特許法29条1項3号の「刊行物に記載された発明」と認定することはできない。
【コメント】
原告は、実験結果を示して、「本件優先日当時、ジイソプロピルアミノシランが製造できた」と主張したが、裁判所は「これらの具体的な実験内容によっても、当業者が思考や試行錯誤等の能力を発揮するまでもなく、製造方法その他の入手方法を見いだすことができたと評価できるものではない」として原告の主張を採用しなかった。