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知財判決ダイジェスト

特許 令和4年(行ケ)第10091号「5-アミノレブリン酸リン酸塩、その製造方法及びその用途」(知的財産高等裁判所 令和5年3月22日)

【事件概要】
 無効審判において新規性ありと判断した審決を知財高裁が支持した事例である。

判決要旨及び判決全文へのリンク

【争点】
 甲2の公表特許公報(引用文献)に一行記載された化合物(5-アミノレブリン酸リン酸塩)(5-ALAホスフェート)が本願発明の新規性を否定する「引用発明」と言えるか。

【結論】
ア 判断基準
(ア) 特許法29条1項は、同項3号の「特許出願前に・・・頒布された刊行物に記載された発明」については特許を受けることができないと規定するものであるところ、上記「刊行物」に「物の発明」が記載されているというためには、同刊行物に当該物の発明の構成が開示されていることを要することはいうまでもないが、発明が技術的思想の創作であること(同法2条1項参照)にかんがみれば、当該刊行物に接した当業者が思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその技術的思想を実施し得る程度に、当該発明の技術的思想が開示されていることを要するものというべきである。

 特に、当該物が新規の化学物質である場合には、新規の化学物質は製造方法その他の入手方法を見出すことが困難であることが少なくないから、刊行物にその技術的思想が開示されているというためには、一般に当該物質の構成が開示されていることに止まらず、その製造方法を理解し得る程度の記載があることを要するというべきである。そして、刊行物に製造方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見いだすことができることが必要であるというべきである。

(イ) 以上を前提として検討するに、5-ALAホスフェートは新規の化合物であるところ、上記⑵のとおり、引用文献には、化合物である5-ALAホスフェートが記載されているといえるものの、その製造方法に関する記載は見当たらない(甲2)。

 したがって、5-ALAホスフェートを引用発明として認定するためには、引用文献に接した本件優先日当時の当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、本件優先日当時の技術常識に基づいて、5-ALAホスフェートの製造方法その他の入手方法を見いだすことができたといえることが必要である。

・・・

エ 小括
 以上によれば、引用文献に接した本件優先日当時の当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、本件優先日当時の技術常識に基づいて、5-ALAホスフェートの製造方法その他の入手方法を見いだすことができたとはいえない

 したがって、引用文献から5-ALAホスフェートを引用発明として認定することはできない。

【コメント】
 新規の化学物質に係る発明の新規性の判断において、「引用発明」と認定するためには、「刊行物に製造方法を理解し得る程度の記載がない場合には、当該刊行物に接した当業者が、思考や試行錯誤等の創作能力を発揮するまでもなく、特許出願時の技術常識に基づいてその製造方法その他の入手方法を見いだすことができることが必要である」との「判断基準」を明確に提示した点で今後の特許実務に参考となる重要な裁判例であると考えられます。

 なお、特許・実用新案審査ハンドブック3207にも同趣旨の記載があります。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/handbook_shinsa/document/index/03.pdf#page=12

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